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蒼空少女騎士団(仮) 第一章「天翔る乙女たち」

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 そんなことはつゆ知らず、本土へと戻ったクーは研究開発部隊に配属された。ジェット機に対抗する新部隊と聞いていた彼女は当初面食らったものの、そこでは開発中の新型機、それはすなわちロケット戦闘機だったのだが、を逐一戦線に投入し、戦績やパイロットの意見をもとに改良を加えるといった方法をとっていたため、実質的な仕事は前線基地にいたころとあまり変わらなかった。いやむしろ、飛行試験や報告書を作成する作業が増えた分、仕事量は前線にいたころよりも増えたというのが正解だっただろう。そしてまた、クーはの働きは周囲の期待を大きく上回るものであった。彼女の天性の才能は、高速域での微妙な機体操作を要求されるロケット機でも遺憾なく発揮され、何かと機体の取り扱いに難儀しているほかのパイロットたちを尻目に次々と成果を上げていったのである。当初、ロケットにおざなりな翼を付けた程度でとても航空機と呼べる代物でなかった機体が、短期間のうちに曲がりなりにも実用に耐えうる状態にまで仕上げられたのは、クーの功績によるものが大きいことは誰の目にも明らかであった。
 ロケット機の運用がようやく軌道に乗り始めたころ、クーは再び部隊の転属を打診される。新造された飛空母艦の艦載機部隊ということで、以前より艦載機に興味のあった彼女は二つ返事でその要望を受け入れ、新天地へと赴いたのであった。

 帝国領(旧王国領)の北端にある辺境自治区は、長きにわたって隣国と国境を争っているため紛争の絶えない土地柄である。ミルファ・アッシュは、その地方の下級貴族の出身で、中央の航空兵学校を出た後は地元に戻って辺境警備隊に籍を置き、空の警護を担ってきた。ちょうどこの時期、隣国の攻勢が勢いを増していたこともあり、連日のように出撃を繰り返していたミルファは実戦を通して徐々に頭角を現し、女性パイロットとしては初となるエースの称号を獲得するに至っている。その後も順調に戦果を上げ、中央に教官として招かれるまでに打ち立てた総撃墜数は三十一機という記録は、歴代でも五本の指に入る数字として語り継がれている。むろん、その中で女性という立場にあるのは彼女一人であったことはいうまでもないだろう。
 ミルファが教官として着任し、最初に請け負った生徒の中には王族の一員にして旧王国領最南端の自治区領主の長女となるラーヤ・ロゼフィルドが含まれていた。ラーヤは実技はからきし駄目だったが、非常に努力家で座学の成績は常に最高位を保っていた。わからないことがあると納得のいくまで教官たちを質問攻めにするため、一部の教官からは疎まれている面もあったが、ミルファは逆にその熱心さを高く評価し、とことんまでラーヤに付き合い気が付いたらすっかり夜が更けていた、などということも珍しくはなかった。お互いの勉学に対する姿勢が近かったこと、また出身が旧王国領の北端と南端に分かれていたため文化の違いを教え合うなどといったことを繰り返してきた結果、十歳近い年齢の差を差し置いて公私ともに二人が仲良くなるのにそれほど時間はかからなかった。
 ラーヤが航空兵学校を卒業し、地元へと帰った後も手紙を通して二人の交流は続いていた。それは居城の庭園に新しい花が咲いたことだったり、城下町を訪れた隊商の一団の様子であったりと何気ない日常のやり取りが主だったが、時には最新の航空兵学についての教えを請われることもあり、そのような折にミルファは学生時代のラーヤを思い浮かべながら丁寧に返事をしたためたりするのだった。また、時にはミルファの方から航空機に関する最新情報を知らせることもあり、中でも全金属式の低翼単葉機が登場したことや、飛空船に航空機を搭載して空中から航空機の発進と収容ができるようになったことは、ラーヤを著しく興奮させた。この時代、航空機の発展が一気に進んでいたとはいえ、貴族階級にとっての進学先はまだまだ陸軍兵学校が中心であったことを考えると、ラーヤが航空兵学校を修学先に選んだことはひとえに彼女に先見の明があったからだといえよう。そして、彼女と同様に航空機の将来性にいち早く気付いていたミルファを教官に迎えられたことは、学生時代のラーヤにとって単なる偶然では済まされない幸運な出来事であった。一方のミルファにとっても、単なる下級貴族出の身でありながら王位継承権を持つラーヤと深い絆で結ばれたことは、何物にも代えがたい貴重な収穫であった。
 自治区に戻ってからのラーヤは積極的に航空兵力の有用性を説いて回り、およそ一年の後には独自の空軍を設立するに至っていた。ミルファの故郷に展開していた空軍は中央政府によるもので、あくまでも隣国との紛争に備えて駐屯していただけのものであり、自治区が自身の手で空軍を整備することは実質的にこれが初の出来事だった。しかし、後になってこのことが不幸を招くこととなる。すなわち、王位継承権で下位に位置していたラーヤが積極的に軍事力を増強し次期王座を狙っているとの噂が立ち、それを恐れたものたちによる王位継承権を争う内乱が勃発したのである。きっかけは、ほんのちょっとした偶然だった。自治区に各界の重鎮を招いて空軍のデモンストレーションを行っていたときに、航空機から落ちた部品が貴賓席へと飛び込み、王族の一人が軽い怪我を負ったのである。その場は事故ということでひとまず収まったものの、噂は尾ひれを呼びラーヤを危険視した隣の自治区が彼女の自治区へと突如侵攻を開始し、内乱の火ぶたが切って落とされたのであった。当代の領主、つまりラーヤの父親は積極的に反撃に打って出ようとしていたが、ラーヤは当初、自国民同士による戦闘に強く反対をしこれを抑えようと尽力した。しかし、反撃を控えても敵による攻撃はとどまるところを知らずにますます戦線は拡大する一方で、ついにラーヤも父親の意見に同意せざるを得なかった。
 防戦一方から攻勢に出ると決断してからのラーヤは積極的に前線へ赴き、努めて直接陣頭の指揮を執るようにした。上に立つものたるや、奥にこもってばかりおらずに自ら進んで先頭に立ち下のものたちへ規範となるべしと、学生時代にミルファが口にしていたことを忠実に実行していたからであったが、しかし周囲の人々に対しては万が一にも負傷でもしたらと心配の種を振りまくことになり、ラーヤに対して城に戻るように助言をするものが後を絶たなかった。とはいえ、当初の目論み通りに前線の兵士達にとってはラーヤの姿を目の当たりにすることは大いに士気が上がることに繋がったため、やがてそのような忠告も徐々に影を潜めていったのだった。
 悪いことは続くものである。ラーヤたちが反転して攻勢に出ると、いよいよ彼女が次期王座を狙っているという話が信憑性を帯び、それまで様子を静観していた他の自治区や中央政府も雪崩を打つように戦いに参入し、ついに国家全体に戦の炎が飛び火することとなってしまった。