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蒼空少女騎士団(仮) 第一章「天翔る乙女たち」

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 ラマス・ロ・クーは大陸南部の山脈一帯に居を構える少数民族の出身である。大陸に王国が興るはるか前からこの地で生活を営んでいた彼らは、王国建国期にその傘下に入ることを最後まで拒否し、激しく抵抗したことで知られている。最終的には彼らに一定の自治権を与えるという名目で双方合意に至ったわけだが、実質的にはほぼ独立国に等しく、王国とは緩やかな同盟関係を築いているような間柄だった。山岳地帯で狩猟と採集を生業とする生活は彼らに高い心肺機能と健脚をもたらしたが、いっぽうで産業革命の波に乗り遅れたため生活水準は王国のそれと比べて五十年ほど遅れているといわれている。それを憂慮した部族長たちにより王国へ技術研修団を派遣することになり、クーもその一員として参加していた。軍属だった彼女は研修先を空軍、しかも操縦課程専攻という選択をしたものの、座学はともかく実技ではその高い身長が災いし、操縦席で窮屈そうにしている姿を周囲に笑われることもしばしばであった。しかし、本人はいたって真面目に訓練に取り組み、座学、実技とも優秀な成績を修めていた。
 そのような折、王国で内戦が勃発して多くの仲間たちが次々と帰国する中、戦いの行く末を自らの目で見届けたいと考えたクーは僅かな仲間たちとともに王国に残る道を選択した。彼女が残った地、そこはすなわちラーヤの直轄領だったのだが、やがて内戦が激化しラーヤが南洋はるか遠くの地へと王国を出ることを公布したとき、クーと行動をともにしていた仲間たちはいよいよもって帰国することを決意したのだが、クーのみはラーヤとその領民たちと行動をともにする道を選んだのだった。生まれて初めて王国という外の世界を知った彼女にとって、さらなる外の世界を覗いてみたいという欲求は、何物にも代えがたかったのである。
 そのような事情でラーヤが興した王国軍に身を寄せているクーだったが、そもそもの出身の特殊性に加えて、帝国に対して山岳民族の支持を受けていること、すなわち王国としての正当性を喧伝する目的もあって、義勇軍という肩書きを与えられていた。もっとも、その肩書きゆえに正規の指揮系統からある程度独立して自由に動ける身を得た彼女が、最前線に身を投じてしまったのは完全な誤算だった。上層部としてはあくまでも義勇軍が参加しているという大義名分が必要なのであって、いつ墓標にその名を刻むこととなるやもしれぬ前線にクーが立つなどぞっとする話であったのだ。
 裏の事情はどうあれ、前線でのクーの活躍は目を見張るものがあった。古来より狩猟と採集を行いながら険しい山の中を移動することを生業としていた山岳民族は元来視力と瞬発力に優れており、それが、広い空にあっていち早く敵機を補足することと、戦闘時の激しい機動においても的確な機体操作を行えるという二つの類い稀なる才能をクーに与えていたのである。また、十分に敵を引きつけてから攻撃を行う彼女の戦闘スタイルは一撃必殺であり、初弾または二射目で敵機を撃破する確率が実に八割以上という驚異的な数値を誇っていた。自然、彼女の戦法を真似ようとするものが続出したが、いずれも最後までものにすることはできずに挫折の憂き目にあうのであった。
 さて、このように申し分の無い実績を上げていたクーであり、本人もまた周囲からの評価を十分に理解していたため、ある日司令部に呼び出さ、本国の航空隊への転属を打診されたことは青天の霹靂だった。
「私、まだここで戦いたい」
 山岳民族は原則として、独自の言語を用いる。いまだ慣れない王国共通語で司令官に願い出たクーだったが、司令官はかぶりを振ると彼女に向かって告げた。
「ここ最近、敵が投入しているジェット機については知っているな」
「知ってる。私、戦った。とても、とても速い。戦うの、大変」
 司令官が言うには、最近、そのジェット機に対抗する航空隊が本国で設立されたらしい。ついては、隊員を募っているとのことで、前線の部隊にも隊員を推挙するように達しがあった。それによると、特に反射神経に優れている人物を求めているとのことで、そこで今回司令官はクーに白羽の矢を立てたという話だった。
「正直、君が隊を抜けるのは大きな損失だと思っている」
 司令官はため息交じりにいった。
「だが、これもまた国のためだ。受け入れてはもらえないだろうか?」
 本来ならば転属の辞令を出すだけで済むところを、わざわざクーに意向を尋ねるところが、彼女の立場の特殊性を表していた。
 司令官の言葉を聞いて、クーは少し考え込んだ。現行のレシプロ機では、ジェットに対抗するのは到底無理だ。となると、新しい部隊では何かジェットに対抗しうる新型の戦闘機が配備される可能性が高い。それはとりもなおさず、王国の最新技術が反映されたものとなるだろう。ここで、クーの好奇心が激しく刺激された。
「わかった。私、部隊を移る」
 クーの返事に、司令官はほっとした。
「無理を言っていることは重々承知だが、そういってもらって助かるよ。早速で申し訳ないが、今日の午後の便で本国へ向かってくれないか。話は通しておく」
「了解だ。失礼する」
 そう答えて、クーは司令官室を退室した。
 宿舎に戻ったクーを、早速披講し仲間が取り囲んだ。彼らは、司令官室でいったい何があったのかを次々に問いかけたが、クーが部隊を移る話をすると、みな一様に驚きの声をあげた。ひっきりなしに戦闘の続く前線では彼女の戦力に頼っている面も大きかったのだから、それもまた無理からぬ話であった。
「今後の戦いがきつくなるな」
 誰かのつぶやいた言葉に、クーは荷物をまとめながらすまない、と応えた。
「しかし、ジェットは強い。このままでは、かなわない」
 クーがそう応じると、それはその通りだと皆が同意した。まだ遭遇する頻度は少なかったが、それだけジェット機の登場は前線で戦う航空兵たちに衝撃を与えていたのだった。
「まあ、何だ」
 クーを取り囲む航空兵の一人が口に出した。
「お前さんがジェット機に対抗する戦法を編み出してくれれば、俺たちも一安心だな」
 一斉にその言葉に同意する声があがるとともに、クーの背中や腕を叩きながら頼んだぞとか、しっかりやれよという言葉が彼女に浴びせられた。遠慮の無い叩き方は実際の所痛かったが、仲間の気持ちを思うとそれもまた嬉しく感じられた。
 そうして、クーは仲間たちに見送られ、迎えの飛行艇に乗って前線の基地を後にした。
帝国の大攻勢により前線基地が壊滅する、わずか十日前の出来事であった。