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蒼空少女騎士団(仮) 第一章「天翔る乙女たち」

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「王都上空は防空艦と戦艦にて防衛する。戦闘機隊は敵艦隊に向かう攻撃機を援護セヨ」
 矢継ぎ早に、本部からの指令が届く。それを受けて、大隊長がシルルを含む中隊ともう一つの中隊に攻撃機の護衛を、残る小隊に王都へ侵入してくる敵機の撃退をするように指示を出した。王都上空を旋回していた二十七機が分かれ、十八機が飛行場から出撃してきた攻撃機の方向へ、また九機は侵入してくる敵へと進路を向けた。敵側も、攻撃機の接近を察知したのだろう、編隊がばらけて迎撃に向かうのが、レーダー上で見て取れた。
「シルル、スロットルを絞れ。排気炎が見えているぞ」
 小隊長から警告が飛び、シルルは慌ててスロットルを緩めた。レーダー技術に劣る大陸側は装置の小型化に手間取っており、まだ機載レーダーを実用化できていなかった。従って、敵編隊は母艦となる飛空船に搭載されたレーダーの反応を基に無線で指示を受けて目標を見定める。むろん、ひとたび戦闘状態に陥ればレーダーでそこまで細かな動きを追うことはできないし、第一無線でやりとりするなどという悠長なことを行っている暇もなく有視界戦闘となるのは必定。なので、今回のような夜間戦闘となれば標識灯や排気炎は格好の射撃目標となるのであった。もちろん、大陸側とてそのような不利な状況は百も承知の上のこと、むやみに夜間攻撃を仕掛けたりはせず、かといっていたずらに損害が大きくなる日中の攻撃も避けて薄暮や未明を狙って侵攻してくるのがこれまでの常だった。
 さて、そんなわけで動く標的となることを避けたシルルであったが、重装備の攻撃隊の方はさにあらず、重たい機体を全速力で敵艦隊へと運ぶためエンジンは全開状態で悲鳴を上げ、排気炎も盛大に吹き出している有様だった。これでは飛んで火に入る夏の虫。敵艦にたどり着く前に、大多数が撃墜されてしまうに違いない。そのためにも、戦闘機隊はいち早く攻撃隊の護衛に入らなければならないのだったが、幸い位置関係の都合上、巡航以下の速度でも十分に間に合うことは明白だった。だがしかし。
 敵編隊の後方にぽつぽつと光点が現れると、次の瞬間それらは一斉に長い炎の尾を引きながら矢のように一直線に攻撃隊へと突っ込んで行ったのだった。
「ジェットだ! ジェットが出た!」
 誰かの叫び声が、無線機から聞こえてきた。ジェット機は、ここ最近になって現れるようになった最新の兵器だった。酸素と燃料を混合して燃やし、後方へと噴射することで推進力を得る機体は、これまでのレシプロ機の常識ではなしえない高速での飛行を可能にする。理論は割と早い時期から確立されていたものの、機械の精度や燃料に問題があり、実用の域に達したのはほんの数年前のことであった。それでも初期のエンジンは耐久性能が低く、ようやくここへきて実戦に投入されるに至ったのである。しかしそれも、優れた技術者を多く抱える大陸側においての話、王国でも必死に開発は続けているものの、まだ実戦に投入できる完成度には到底及んでいないのが実情だった。
 ともあれ、ジェット機が戦線に現れるようになって半月あまり。攻撃隊を守るために全速で駆けつける戦闘機には排気炎を気にする余裕もなく、遅れて到着する敵レシプロ機から狙い撃ちされるといった事案が後を絶たなかった。かといって、いくらジェット機が新鋭でその数が僅かだとはいっても、攻撃隊を見過てるわけにもいかず、ここしばらくは芳しくない戦況が続いていた。敵の狙い通りに翻弄されているのはしゃくに障らないが、さりとてできる対策といえばせいぜい隊を二手に分け、片方を全速で護衛に向かわせ、残った隊で後から来る敵レシプロ編隊の相手をする程度がせいぜいだった。今回も、同様の命令を体長が下そうとしたその矢先、本部から無線が入った。
「戦闘機隊へ。ジェットの相手は第十七特務中隊が引き受ける。進路、速度そのまま」
「特務中隊?」
 全機に届いていた無線を聞いたシルルは、思わず疑問を口にした。
「シルル、私語は慎め」
 すかさず、小隊長から叱責が飛ぶ。
「は、はい。申し訳ありません!」
 謝ったシルルに対して、小隊長は翼を振って応えた。
「ロケット機で編成された部隊のことだ」
 続いて聞こえてきた小隊長のつぶやく声に、シルルは状況を理解した。固めた火薬を機体に詰め込み、それに点火することで爆発的な推進力を得るロケット機自体は、構造が単純なだけにレシプロ機よりも早い時期から存在していた。ただ、いったん点火した火薬は燃え尽きるまで燃焼を続けることと、その燃焼時間が短いことから実用的な航空機としての利用価値はないとされ、事実、これまで実験的な目的を除けばほとんど忘れ去られていたも同然の存在だった。それが再び脚光を浴びるようになったのは大陸側がジェット機を投入してきてからで、先に述べたようにジェットエンジンの開発に後れを取っていた王国側が速度で対抗するにはロケット機に頼らざるを得なかったのである。
 そのような理由で数ヶ月前から突貫作業でロケット戦闘機が開発されているという話はシルルも聞き及んでいたが、それが実戦投入されるのはこれが本邦初の出来事なのであった。
 本部からの連絡を受信してから少し後、後方から轟音が近づいてきたかと思うと瞬くまもなく長い炎の尾を引いた機体がシルルたちの編隊を追い越して前方へと飛び去っていった。一つ、二つ、三つ……全部で五つの光点はみるみるうちに敵ジェット機の編隊との距離を詰め、もう少しで接触するというところでふっとエンジンの火が消えた。あ、とシルルは声をあげかけた。ロケット戦闘機はその性能に忠実にすさまじい速度で敵編隊に接近し、あと少しというところで燃料が尽きたに違いなかった。しかし、十二分に加速されたロケット機は、慣性の法則に従って敵編隊に追いつくことに成功したようだった。前方で曳光弾の放つ光の束が、一つ、また一つと夜空に映し出される。それに伴い、敵編隊が崩れていく様が、ジェットエンジンの軌跡から見て取れた。戦闘ということを忘れれば幻想的ともいえる光景に、シルルは下腹部の痛みも忘れて魅入っていた。
 実際のところ、ロケット機はジェット機に対してほとんど驚異とはならなかった。端的にいって、速度差がありすぎたのである。このため、後方から追いついたロケット機が一回射撃をする余裕があらばこそ、次の瞬間には敵機を追い越してしまい射撃のチャンスを失ってしまうのだった。とはいっても、いきなりの後方からの攻撃に驚いた敵機たちが編隊をばらばらに崩して逃げ惑ったため、味方の攻撃隊に接触する機会を遅らせることができたことは、シルルたち戦闘機隊の本体が攻撃隊の援護に回るだけの時間を稼ぐのに十分であったのだった。