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蒼空少女騎士団(仮) 第一章「天翔る乙女たち」

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「まあ落ち着けよ。そういう意味じゃない。今度、このロゼフィルドで俺が航空部隊の指揮を執ることになる。そこにお前の力を貸して欲しいんだ」
 リファシスは二、三度目をしばたたかせ、呆けたような表情でロッキのことを見た。やがて事態が飲み込めると、自分の早とちりに顔中が真っ赤に染まる。
「少尉、冗談が過ぎます!」
 抗議の声を上げながら彼女は手でほてった顔を仰ぎつつ何度か喉を鳴らし、気を落ち着かせた。
「それはもちろん、そういうご命令を受ければ精一杯お力添えさせていただきますが」
 改めてロッキに応じたリファシスに対し、ロッキはそれを遮るように話した。
「ああ、むろん異動の辞令は追って出すことになる。ただ、俺がいっているのはそういう意味じゃあ、ない」
 そこで彼は姿勢を正し、真剣な表情でリファシスの顔を覗き込んだ。
「いずれこの船、というより本艦に配属される航空隊は重要な使命を帯びることになる。そのとき、単に命令だからという理由でなく、積極的に俺の手足となってくれる人材を探しているんだ。どうだ、協力してくれないか?」
「申し訳ありませんが、私は少尉がどういう人物なのか存じ上げません。それに、内容かわからない以上、この場で即答することは出来かねます」
 少し考えた末、リファシスは応えた。それに対して、ロッキはにやりとすると、
「いい答えだ。ますますお前のことが欲しくなったよ」
といった。そして、
「辞令はそう遠くないうちに届くはずだ。いまの話、考えておいてくれ」
 そういいながら、リファシスに背を向けると片手をひらひらとさせながらその場を後にした。
「あ、上着」
 ロッキの上着を借りたままだったリファシスは、慌てて彼を追おうとしたが、ふと思い直すとそのまま甲板にとどまった。どのみち、お互いにしばらくはこの船の上で過ごすことになる。顔を合わす機会など、これからいくらでもあるはずだ。上着はそのときに返せば良い。それに、いまロッキから言われたことも含めて、もう少しだけここで物思いにふけりたい気持ちもあった。

 甲板から船内へと戻ったロッキは、通路から甲板を覗いていた少女と鉢合わせした。
「おっと」
 そんなところに人がいると思っていなかったロッキは、少女とぶつかりそうになって慌てて身をかわした。
「あ、失礼しました。少尉」
 その声に聞き覚えがあったロッキは、改めて少女の顔をまじまじと見つめた。そうだ、この顔は確か艦橋で見かけたはずだ。
「お前さんは確か、艦橋に詰めていた……」
「はい。気象班所属のアクリル・アクレル二等兵です」
 敬礼をしながら、アクリルと名乗った少女は自らの姓名と所属を告げた。ロッキは返礼をするとともに、素直な疑問を彼女にぶつけた。
「こんな時間に、こんなところで何をしているんだ?」
「あ、その、勤務明けで甲板に出てみようかと思ったんですけど」
 そういって、アクリルは言葉を濁した。その様子を見てロッキは、リファシスが試験飛行を行うときに彼女が艦橋に詰めていたことを思い出した。
「もしかして、あいつのことを気にしているのか?」
 親指で窓の外を指し示しながら、ロッキは訊ねた。それは、アクリルが出した気象予報が大きく外れ、結果的にリファシスのみならずロゼフィルドをも危険に巻き込んだことを、彼女がひどく気にしていることを承知の上での発言だった。とはいえ、本来新兵のアクリルが独断で予報を出すことは規則違反で、上官が常に横で指導に当たらなければならなかったところを、人材不足と単なる試験だからという理由で彼女一人に作業を押しつけてしまったことは当時艦橋にいた全員が承知していたことであり、アクリルの責任はいっさい問わないということで結論は出ていたはずであった。むろん、だからといってアクリルの罪悪感がなくなったわけではなく、こうしてリファシスを前にして甲板に出るかどうか迷っていたわけであった。
「あ、はい。あの、あの方ってリファシス一等兵曹ですよね」
 アクリルとリファシスは、この時点で互いに直接面識はなかった。とはいえリファシスは空戦の英雄として祭り上げられている身であり、ポスターなどで盛んにその写真を使われていることからアクリルとしてはその姿に見覚えがあったのも当然であった。
「その通りだが」
 ロッキは一瞬、どうしたものかと思案した。アクリルがリファシスに対して引け目を感じていることは、目に見えて明らかだった。とはいえ、間違いは誰でも起こし得るものだ。もちろん、ミスを犯したことを反省することは大切だが、必要以上にそれにとらわれて萎縮してしまっては、できる仕事も出来なくなってしまう。ここは一度、直接二人で会話させた方がアクリルのためになるだろう、そうロッキは判断した。
「なあに、気にすることはないさ。行ってこい」
 そう言いながらロッキは扉を開けると、いまだと窓手散るアクリルの背を押して強引に甲板へと送り出した。

 背中越しに扉の開く音が聞こえ、リファシスは誰かが甲板へと出てきたのだと悟った。むろん、非戦闘時の甲板への出入りに何か特別な許可がいるわけでもなく、背後での出来事をいちいち気にするまでもない。ただ、その足音が多少ためらいがちとはいえ、自分に向かって近づいてくるとなれば話は別だった。
 「あの」
 背後から、おそるおそるといった感じで彼女に声がかけられた。
「リファシス一等飛空曹殿ですよね?」
「そうだけど?」
 振り返ったリファシスの目の前に立っていたのは、まだ少女の面影を残した女性兵だった。二等兵の階級章を付けているところをみると、まだ新兵なのだろうか。少なくともリファシスにとっては初めて見る顔だった。
「あなたは?」
「アクリル二等兵であります。気象班に所属しております。あ、あのっ!」
 緊張した面持ちで、アクリルはリファシスに告げた。そして、そのまま一気に次の言葉を吐きだしてしまう。
「飛空曹殿が試験飛行するときの気象予報を担当しておりました。その節は大変ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでしたっ!」
 そういって、アクリルは深々と頭を下げた。一方、リファシスはといえば、突然の謝罪に面食らって固まってしまっていた。
 そのまま数秒、互いに同じ姿勢のまま相対する状況が続いた。先に動いたのは、リファシスだった。
「あ。え、ええと……」
 どうしたものかと、髪をいじりながら彼女は口にした。
「とりあえず、顔をあげて頂戴な」
 そういわれて、アクリルはおそるおそる姿勢を正した。それを待って、リファシスは口を開いた。
「あなたがあのときの予報を担当していたのね? 経験はどれくらいあるのかしら?」
「今回が初めてであります」
 アクリルの答えに、リファシスは絶句した。こめかみを指で押さえながら、彼女はアクリルに疑問をぶつける。
「ちょっと待って。確か、最初のうちは教育係が付くと思ったんだけど、それは誰だったの?」
「いいえ、実は」
 そういって、アクリルは一人で担当していた理由を説明した。それを聞いてリファシスは再度絶句した。
「それは、いくら何でも」