夜のなく声
夜は静寂の闇。
世界すべてを包み込んで安らぎと永遠を与えてくれる。そして、それはすべての終わり。私は夜が好き、けれど、その闇が怖い。
私は夜に憧れていた。
たくさんの人、にぎやかな街並。
いつものように帰り道、雑踏の中を歩く。人々の流れに身を任せ、ただ歩いてゆく。どこへ向かうのかも分からなくなりそうな世界。街並みも人も空も、すべてが背景のようにあいまいに流れてゆく。すべてがあやふやだ。
そのとき、一瞬、何かが目に映った。黒く鋭い何かが……。私はその黒から目がそらせなくなり、良く目を凝らして探す。何か寒気にも似た予感が私の心に起きていた。怖いけれど逃げられない。
黒。
中学生くらいだろうか。小柄な少年が私の方を見ていた。射すくめるような鋭い視線。黒い服、黒い髪、黒い瞳。
そして、黒の少年はこちらへ近づいてきて言った。闇のように底冷えする声だった。
「お前だろう。美弥」
その言葉に、ぞくり、体に冷たい衝撃が走る。
少年は私の名前を呼ぶと私の手首を強く握ってきた。強く強く、憎しみをこめるように。痛い……。小柄な子どものどこにこんな力があるのだろう。なぜ少年が私の名前を知っているのか不思議に思うよりも、恐怖が勝っていた。
「お前は黒い命を知っているな。お前は夜を知っているな。お前の好きな時間だろう」
子どもは良く分からないことを言ってきた。
「し、知りません……。離してください」
私は泣きたい気持ちになっていた。この子どもは誰なのだろう。どうしてそんなことを聞いてくるのだ。手を振りほどこうとしても少年の強い力に阻まれる。
怖い。
そして、私はこの少年の持つ不可思議な雰囲気に怯えていた。外見は子どもだけれど、どこか人ではないようなそんな怖ろしさを感じさせる。子どもは悪魔だ。幼い外見で人を騙し陥れる。
真っ黒な髪、真っ黒な瞳。それなのに肌は紙のように白いのだ。服も真っ黒で、黒と白に目眩がする。
怖い、怖い。けれど、どこか惹かれる漆黒の目……。
一瞬、火花が散った。錯覚。
「お前は朝だ。優しくて残酷な光」
少年の言葉が私の心に響く。意味は分からないのに何かとても重要なことを言われた気がして、叫びたい気持ちになる。どうしてだろう、私はどうしてしまったのだろう。心の中が混沌として、渦に飲まれそうになる。
そして、少年は私の手首を掴んだまま歩きだした。手の力が緩められることはなく、私は逃がしてもらえないのだと悟った。その力に強い憎しみのようなものを感じて怖くなる。
人の波間を抜けて私達は歩いてゆく。傍から見れば姉弟か何かのように見えて、誰も助けてはくれないだろう。この少年が不可思議な生き物だとは誰も思うはずがない。
世界すべてを包み込んで安らぎと永遠を与えてくれる。そして、それはすべての終わり。私は夜が好き、けれど、その闇が怖い。
私は夜に憧れていた。
たくさんの人、にぎやかな街並。
いつものように帰り道、雑踏の中を歩く。人々の流れに身を任せ、ただ歩いてゆく。どこへ向かうのかも分からなくなりそうな世界。街並みも人も空も、すべてが背景のようにあいまいに流れてゆく。すべてがあやふやだ。
そのとき、一瞬、何かが目に映った。黒く鋭い何かが……。私はその黒から目がそらせなくなり、良く目を凝らして探す。何か寒気にも似た予感が私の心に起きていた。怖いけれど逃げられない。
黒。
中学生くらいだろうか。小柄な少年が私の方を見ていた。射すくめるような鋭い視線。黒い服、黒い髪、黒い瞳。
そして、黒の少年はこちらへ近づいてきて言った。闇のように底冷えする声だった。
「お前だろう。美弥」
その言葉に、ぞくり、体に冷たい衝撃が走る。
少年は私の名前を呼ぶと私の手首を強く握ってきた。強く強く、憎しみをこめるように。痛い……。小柄な子どものどこにこんな力があるのだろう。なぜ少年が私の名前を知っているのか不思議に思うよりも、恐怖が勝っていた。
「お前は黒い命を知っているな。お前は夜を知っているな。お前の好きな時間だろう」
子どもは良く分からないことを言ってきた。
「し、知りません……。離してください」
私は泣きたい気持ちになっていた。この子どもは誰なのだろう。どうしてそんなことを聞いてくるのだ。手を振りほどこうとしても少年の強い力に阻まれる。
怖い。
そして、私はこの少年の持つ不可思議な雰囲気に怯えていた。外見は子どもだけれど、どこか人ではないようなそんな怖ろしさを感じさせる。子どもは悪魔だ。幼い外見で人を騙し陥れる。
真っ黒な髪、真っ黒な瞳。それなのに肌は紙のように白いのだ。服も真っ黒で、黒と白に目眩がする。
怖い、怖い。けれど、どこか惹かれる漆黒の目……。
一瞬、火花が散った。錯覚。
「お前は朝だ。優しくて残酷な光」
少年の言葉が私の心に響く。意味は分からないのに何かとても重要なことを言われた気がして、叫びたい気持ちになる。どうしてだろう、私はどうしてしまったのだろう。心の中が混沌として、渦に飲まれそうになる。
そして、少年は私の手首を掴んだまま歩きだした。手の力が緩められることはなく、私は逃がしてもらえないのだと悟った。その力に強い憎しみのようなものを感じて怖くなる。
人の波間を抜けて私達は歩いてゆく。傍から見れば姉弟か何かのように見えて、誰も助けてはくれないだろう。この少年が不可思議な生き物だとは誰も思うはずがない。