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コックリさんの歌

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「その後三年間、その子は各地を転々としていた。僕が彼女と出会ったのは最後の引き取り手の男の元でね。彼女は成金男に『飼われて』いた。そこでその子を引き取って、今こうやって一緒に暮らしているわけさ」
「……その男は今はどうしてるんだ?」
「はてさて。その子を手放した途端、ぽくりと逝ったとか。食中毒だった」
「才川、お前――」
「デカ沢ちゃん。好奇心は猫を殺す、だよ――」
 付き合いの長い友人のその愛称を口にして、僕はにこりと笑う。
 ――宵闇の中を、車は町外れの林に向かって滑るように走ってゆく。

 廃村に着く頃には、暗くなっていた。下沢の都合に合わせたら夜になったのだ。
 夜の闇に沈んだ廃村は、この世のモノとは思えない光景だった。傾き廃れた廃屋がこちらを見つめている。
 夜空には月がなく、星すら夜雲の中に隠れてしまっている。
 廃屋がまるで墓標のように並んでいる。その村での人々の生活を語っている。昼間に来れば、少しは印象が違っただろうか。
「なんかここ、気持ち悪いのです……」
「奇遇だネ、僕もだよ」
 ハナちゃんが言うのだから、不味いところなのだろう。
「現場はこの奥の廃校だな」
 下沢の歩みについて行く。
 ……ハナちゃん、歩き辛そうだな。
「ハナちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫……」
 強がりめ。僕はハナちゃんを無理矢理抱き抱える。
「ちょ、ま。な、何するんですか」
「その足じゃ学校に着く頃には朝になっちゃうよ。時間は大切にしなきゃ」
 ハナちゃんは批難混じりの視線をこちらに向ける。
 ハナちゃんを抱えて、廃村を進んでいく。十分ほど歩いただろうか、廃村の中でも一際大きな建物に行き着く。
 ――村分校という看板が立っている。ただ、村の名前だけ削り取られている。
「名の消えた村、という都市伝説だね。日本のどこかの林の中に、地図から消え、名前さえ奪われた村があるらしい、という内容の噂だっけか」
「ついでにいえば、一昔前に大量虐殺があった、という噂もあるな。多分噂の源流は津山三十人殺しだろうな」
 因みに津山事件が起こった加茂町行重は都市伝説などで語られる廃村にはなってはいない。なんというか、夢のない話だ。怪談、都市伝説に『夢』という言葉を使うのも違和感の強いところであるが。
 噂の真偽はさて置こう。この村の歴史がどうあろうと、ここに廃村として存在することは事実である。この村は異界でも何でもなく、日常と地続きで存在する現実である。
 だが、その現実の闇に隠れている化生たちは別だ。アレらもまた、現実と地続きの場所にいる。存在するから、話に上がる。存在しないのなら、そもそも概念として存在しない筈なのだから。
 事実として、彼らは存在する。アマミさんや幽霊バス等など。僕は様々な人ならざる領域のモノをに触れてきた。それでいて未だ、こうして無事でいられることに、一つ、感謝しなければならない。
 現場の廃校は、目の前に迫っていた。

作品名:コックリさんの歌 作家名:最中の中