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しぼりだした素直

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 ゆったりと、クラシックかジャズか、またはそれっぽいBGMを片手間に、文庫本のページを捲る。周りからは騒がしくない程度のおしゃべりがこぼれている。
 駅近くの喫茶店は、ランチタイムも終わりに近いせいかビジネスマンやOLよりも、有閑マダムたちの憩いの場になりつつある。こうしてみると、学生というのは本当に結構なご身分だと思う。
「お待たせ」
「うん、二十分くらいは待ったよ」
 彼女が特に悪びれもしないので、僕も無遠慮に返してみる。やはり彼女はなんともないようで、メニューに軽く目を通すと注文をしていた。
 僕もそれに合わせて二杯目のコーヒーを注文する
「先輩に呼び止められてたの」
 お冷の注がれたグラス、僕に出されたものは汗をかいているのに対し、彼女のそれは平然としている。
「先輩に」
 真っ先に浮かんだ人物、同じゼミの四年生。そこそこに付き合いの長い人だ。
「食事にでも誘われた?」
 そう告げる頃には、彼女のお冷も汗をかき始めていた。
「ゼミで飲み会でもしないかって」
「あいかわらず急だなあ、あ、コーヒーはこっちです」
 注文の品がテーブルに置かれる。彼女の前には、例に漏れずジャスミンティーだ。
「君に幹事を頼めないかって言われたの」
 急なご氏名に、コーヒーを溢してしまいそうになる。何を考えてるんだろうか、あの人は。
「直接言ってくれればいいのに」
「あんまり会わないじゃない」
 やんわりと非難するような彼女は、カップを手にどこか別のところを眺めている。僕もあてどない視線を、どこか別のところに追いやりたい気分で、コーヒーに口をつける。たまには、ブラック以外で飲んでみようかと、砂糖に手を伸ばした。

 先輩と初めて会ったのは大学に入学してから。サークルを見学していたときに紹介をしてくれたのがその人だ。話を聞くと、彼とは同じ学科で、しかも同じ専攻を志望していたので、そのままなし崩し的に親しくなった。
 結局そのサークルには入らなかったけれど、先輩とは付き合いを続けていた。
 そんな彼に紹介されたのがまたもや同じ学科、同じ専攻の彼女で、あとはよくある話だ。
「あ、この子が俺の恋人な。可愛いだろ」
 いわゆるドヤ顔でてらいもなく、恋人自慢をしてくれた。今思い出しても、腹の底になんともいえないものが広がる。
「……そうですね」
 ちょっと困ったように僕を見ている彼女と、呆れたように先輩を見ている僕。確か、その時も彼女はジャスミンティーを飲んでいた。
 それからも、彼女を含めて食事をしたり出かけたり、大学生らしい関係を続けていたのだ。
作品名:しぼりだした素直 作家名:硝子匣