困った時のイエス様
真理恵との生活
不規則ながら、真理恵は高の家に来て食事の支度をしてくれた。料理は美味い。
真理恵はまだ1度も結婚をした事がなかった。36歳だから、不自然ではないが、母親を早く亡くし、父親の面倒を見なくてはならなかったようだ。
その父親が5年前に癌を患い、いつでも父親の面倒が見られるようにと、会社を退職し、スナックを始めたとのことだった。
スナックの利益も父親の旅行代に消えてしまうと言った。
「お金がないなんて言えないわよ。あと何年でもない命の人に」
実にその言葉は淋しく哀れであった。
高は『ぼくと結婚して下さい』とその時言いたかった。
真理恵はその高の口を塞いだ。閉店して誰も居なくなったボックス席であった。
高は真理恵の為であれば、彼女の幸せのためであれば、例え結婚出来なくても、金の援助はしてあげたい気持ちになっていた。
真理恵は高と同棲生活を始めたと言うのに、約束通り毎月3万円を返済した。
「固いな。領収書書きます」
この時ばかりは他人に戻ってしまう。高はこの気持ちは嫌いであった。
この気持ちが結婚を言い出せない原因のようにも感じた。
真理恵は金のためにと思われたくはないだろう。高は金で買うようなことはしたくないだろう。愛とはどこまでなのかと思い、体を寄せ合う事は何なのかとも思うのだ。
金で幸せにも不幸にもなり、金が邪魔して不幸を招くこともあることを高は初めて知った。