困った時のイエス様
スナックマリエ
10日ほどしてスナックに顔を出した。10時頃で店は混んでいた。ママは客と歌を歌っていた。店に居た2人のホステスも客の相手をしていた。カウンターの若い男が
「いらっしゃいませ」
と言った。高はカウンターに腰かけ、ビールを頼んだ。
音楽が止むとママは直ぐに高に挨拶に来た。
「嬉しいです。ゆっくりして行って下さい」
と言った。
店には10人ほどの客がいた。15人入れば満席になる感じの広さである。
繁盛していて高は安心した。ママは客の相手が忙しいらしく、高の傍には就いてくれなかった。高は別にママと話がしたい訳でもなかった。ビールを飲み終えると勘定を済ませた。
「2500円頂きます」
高は5,000円札を出し
「釣りはいいよ」
と言った。バーテンはママを呼んだ。
「おかまい出来なくてすみません。チップありがとうございます」
そう言いながらドアの外まで見送ってくれた。
「また来てくださいね」
ママの笑顔は銀行で見たときとはまるで別人のように生き生きとしていた。
それからマリエの店に行ったのは、2月になってからである。
ニッパチとはよく言ったものだと感じた。店には客が一人だけであった。
まだ8時と時間の早い事もあるのかもしれないが、淋しい感じだ。
「ボックスにいかが」
ママがそう言った。
「こんな有様ですからゆっくりして行って下さい」
高は頷いた。
「友達がお金借りに来たのよ。それで、高さん貸してあげて下さる」
「困っているなら相談くらいは乗りますが」
「サラ金も貸し渋っているようだから、借りたい人は沢山いるのよ。ここのお客さんからも良く聞くわ」
「とりあえず名刺を渡しますから、店に来る様に言って下さい」
「本当にごめんなさい。高さんは神様に見えるわ」
「その方はいくらくらい必要なんでしょう」
「私に言って来たのが200万円でした。そんなにある様に見えるのかしら・・」
「そうですか」
「ねェ歌歌いましょう」
ママに手を引かれ歌を歌った。
「パトロンになってくれる」
耳元で聞こえたが、カラオケの音で聞き間違えではないかとも感じた。
ママはまだ35,6歳にしか見えない。
高は彼女は結婚しているものと思っていた。歌が続いていた。
席に戻ると喉が渇いていたから、ビールを一気に飲んだ。
ママもさっきの話は歌の文句だったように触れなかった。