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リンダリンダ

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駅に着く手前で「中村さん」と呼ばれ、オレは振り返った。菜美が少し悪戯っぽい笑みをうかべながら、「今朝の話覚えている?」と言った。
「えっ、カレーの話?」
「ああ、忘れてなかった。どうして待ってくれなかったの」
「どうしてって、だって社交辞令かもしれないじゃない」
「そうね、私達の仲ってそんな程度ね」
オレは菜美が、もっと深い仲になりたいと言ってるのかと思ったが自信はなかった。
「お昼に」とオレがいいかけた時、「ごめんね」と菜美は言った。そして続ける。
「中村さんがお昼に私のところに来るだろうなあとは思ってたの。でも何だか意地悪したいと思って大竹さんとお昼食べに行くことにしたの」
「ああ、そうだったの、オレ何か意地悪されるようなことしたかなあ」
オレは菜美の一瞬凍り付いた表情を思い浮かべながら言ったのだが、菜美はあのメールの返事通りだったのかどうかは解らない。
「さあ、どうかなあ」と言いながら菜美がオレに身体をすり寄せてきたが、それは単に人混みに押されたせいかもしれない。それでもオレは急速に仲が進展したと感じた。
そのまま人混みに押されるように駅の中に入った。菜美とオレは乗るホームが違う。
「で、カレーごちそうしてくれるの?」
「うーん、どうしようかなあ」
「何だ、やっぱり社交辞令かあ」
「ちがうの、残り物じゃなく、別のものがいいかなと思ったの」
「お、嬉しいな、じゃあハンバーグ」
「ああ、お子ちゃまぁ」
菜美が笑った。オレも嬉しくなって笑った。

菜美のよく行くというスーパーで買い物をした。二人並んであれこれ言いながら食材を選ぶのも、幸せを絵に描いたような姿でいいものだなとオレは思った。
「あ、飲み物どうする?ビール? ワイン?」
「ビールが好きだけど、ハンバーグだからワインがいいかなあ」
「じゃあ私野菜売り場を見てるからワイン買ってきて、高くないのでいいよ」
「オーケー」

オレがワインを持って野菜売り場で菜美を探してみても、菜美はいなかった。一瞬、オレはこのまま菜美が消えてしまったらと思い、うろたえた。しかし、大きなスーパーだ、他に忘れたものを思い出したのだろうと考え直し、菜美の姿を探した。

オレは苦笑してしまった。菜美はお菓子売り場で真剣な顔をして選んでいたのである。
「お子ちゃま」
オレが声をかけると菜美が振り向いた。カートにはもうお菓子が入っていた。
「もっと買うつもり?」
「ううん 見てるだけで楽しいの」
「そりゃあ 安上がりでいい」
菜美が「そうでしょ」と言って笑った。
オレは、お菓子売り場の菜美も可愛いなと親近感を増したのだった。

御飯とパンどっちがいいかということになり、パンに決まったので、途中でフランスパンを買った。二人で相談して買い物をする。それだけで幸せを感じるものなのだなとオレは感じていた。

作品名:リンダリンダ 作家名:伊達梁川