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リンダリンダ

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会社へ向かって歩いていると、前方に菜美の姿を見つけた。追い着いたオレはいつもの調子で声をかけた。
「おはよう」
「あ、おはようございます」
菜美も普通に挨拶をする。表情もいつもと変わらないようだった。
「いつまでも暑いですねえ」
菜美は、昨日は友達とどこに行ったの?と詮索するようなことを訊いてこない。あの一瞬凍り付いたような表情からは考えられない今朝の普通の様子。オレは少し拍子抜けした気分だった。そして、まだ深い関係にはなっていないことが実感された。
「もうすぐ9月になるのにねえ」
オレも当たり前のことを言う。
「昨日は暑いのにカレーを作ったのよ」
「へえ、あ、奈美さん料理得意なんだ」
「ま、得意というかほぼ毎日作ってますよ」
「ああいいなあ、菜美さんの料理食べたいなあ」
男女の関係がより深くなるよくある台詞だなあとオレは思った。
「あ、いいですよ。今晩でも」
「え〜っ、いいの」
「あ、おはようございます」と、菜美が他の同僚に声をかけた。

もう会社内に着いていたので、最後の決定的な言葉が聞けないまま別れた。部署が違うので、会えるのは昼休みになる。

さて、その昼休み。近所にある料理店のどこかに一緒に行こうかと菜美のいる部屋に向かった。すぐに菜美と同僚女性が話をしながら出てくるのに出会った。
「あ、私たちカトレアに行くの。一緒に行きます?」
カトレアは割と安価な洋食の店だ。でもこの言葉は社交辞令だろうとオレは思った。
「ああ、今日はコンビニ弁当にしようと思ったんだ」
オレがそう言うと、菜美と一緒の同僚が「ああ、私いいから菜美、一緒に行きなよ」とオレと一緒にしようとした。菜美はオレを見ながら、「またこんどね」と言って同僚の手を引き外に出ていった。

オレは中途半端な気持ちのまま、コンビニに向かった。積極的に近付いてきていると思った菜美が、本当に好きならあなたから攻めてきなさいといっているように思えた。今晩でもと言った話も結論が出ていなかった。

退社時簡になっても、まだ結論が出てなかった。菜美が「今朝の話のこと、どう?」と来てくれれば結論はすぐ出るのだが、色々考えているとあれは単に社交辞令だったような気にもなってきた。男に家庭料理を食べさせようと思ったなら、昨日作ったカレーではなく、あれこれ考えてじゃあ金曜の夜にねとか言うのではないだろうか。

気持ちの整理がつかないまま会社を出た。どうも女の考えてることはわからんというのが、今まで生きてきたオレの感想だった。特に《待つ女》というのがこまる。自分の欲求を言わず、男が言ってくれるのを待つ、思い通りに誘って貰えないと怒ったり泣いたり拗ねたり。菜美もそうなのだろうかと考えながら、またリンダのことも頭に浮かべながら駅に向かって歩いていた。

作品名:リンダリンダ 作家名:伊達梁川