リンダリンダ
菜美の住んでいるのはあまり特長の無いマンションだった。とりあえずキッチンの椅子をひいてオレに座っていてと言い、菜美は着替えのために部屋に入った。あらかじめオレが来るのを予想していたかのように部屋は片付いており、それがかえって窮屈に思え、盛り上がっていた気持ちが冷めたように思えた。
着替えて現れた菜美は身体を締め付けるものを極力避けたような、どこか南国の民族衣装を感じさせるものを着ていた。
「おう!」と思わず声が出てしまったのは、腰のラインが強調されていて、セクシーに見えたからであった。菜美が裸になったらというそれは当然持っている願望だったが、裸ではなかったが欲望を感じ、オレは少しうろたえてしまった。
「さあ、始めようかな。中村さんも料理するって言ってたよね。手伝って」
「あ、うん」
「わたし、玉葱切るの苦手なの」
「涙が出るの?」
「それは長くやっているうちに平気になったが、玉葱の白が眩しくて目がちかちかするんだぁ」
「ふーん。変わったひとだね。じゃあ、白いワイシャツもダメじゃない」
「それは大丈夫。じゃあみじん切りお願いね」
二人で並んで料理をしていると、一度窮屈に思えた感情もなくなり、なんだかもう以前から一緒に住んでいるような錯覚に陥ってしまいそうだった。
「ハンバーグ大きさが違うね」
「さあ、どっちが中村さんでどっちがわたしでしょう?」
「そりゃあ当然大きいのが菜美さんでしょ」
「ふふふ、そうしようかな」
菜美が悪戯っぽくそう言いながら身体を寄せてきた。太っているようには見えなくても軟らかい感触があって、そのまま抱きしめてしまいそうだった。
「あ、ワイン開けて」
「え、もう飲むの?」
「ソースに使うのよ。少しね」
ハンバーグにはクレソンとトマトを添えて出来上がり、フランスパンを軽く温める程度に焼いた。
「さあ、ん? 何に乾杯かな?」
「とりあえず お疲れさん!」
「はいお疲れ様でした」
「んーーん ワインおいしい」
「ハンバーグおいしい」
食事が済んで、幸せな気持ちのママ二人並んでブルーハーツのCDを聴いていた。
ブルーハーツの《キスしてほしい》の歌が流れていた。思わず二人で顔を見合わせてしまった。菜美が目を伏せた。オレが菜美の肩を抱くと、菜美はグラスの中の溶けた氷が動くようにオレに身を預けてきた。曲が《情熱のバラ》になっている。菜美からは情熱のバラの香りがしている。
オレは、そしておそらく菜美にもブルーハーツの曲は聞こえていない時間が過ぎた。