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リンダリンダ

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退社の時間になり、「お先にしつれいしまあす」と菜美が同僚と一緒に部屋を出ていった。
その言葉もいつもと変わらないと思うのだが、特別な声に聞こえてくるから不思議だ。菜美のことを意識した頭の中で、別の意識が動き出した。リンダがどう思うだろうかと、まるで人間の感情がある扱いになっているのにオレは苦笑して、帰り支度を始めた。

アパートに帰る電車の中で、もう遙か昔のことだなあとオレは回想する。初めて彼女といえるような相手にめぐりあった。時期を同じくして別の女性からコンサートに行かないかと誘いがあった。あれっ、オレってモテるのかななどと思ってしまったのが失敗だったかも知れない。コンサートは知らない歌手だったのでことわった。それはそれで良かったのだろうが、本命の彼女とは数ヶ月で破局を迎えたのだった。モテると勘違いして誠意が足りなかったのだろう。もし、彼女に振られたあとでコンサートの誘いがあったなら行ったのだろう。案外うまくいっていたかもしれない。などと、その少し後に彼が出来たようなその彼女に対して残念に思ったあの頃の身勝手なオレだった。

今度は感情がありそうな不思議な植物と並の器量ながら性格の良さそうな同僚女性。二又とは言えないし、菜美とだってつき合ってもらえるかどうかも分からないのに、そんなことを考えているうちにアパートの最寄駅に着いた。

ドアをあけたらリンダがオレを待ちかねたように玄関の足ふきの前に座っていた。ということはなく、オレはまっすぐにリンダのもとに行った。
「ただいまぁ」
自然にそう口から出た。さすがにそのあと「元気にしてた?」は頭の中だけでしゃべる。
リンダは少しうなだれた様子だった。朝しっかりやった水も、夏は足りないようだ。オレはすぐに水をやりながら、着替えてからもう一度様子を見ることにした。

オレは夕食の準備に入った。野菜とたんぱく質の料理を食べながらビールを飲むことが多い。御飯やパン、麺類などは摂らない。ビールには夏でも温かい料理のほうがい。ガス熱を使うのは熱いのだが、火を点けた後は離れていられる料理にすればいいのだ。オレは蒸し器に水を入れ火を点けた。ざっと洗ったじゃがいもを3個ほど中に入れる。人参や玉葱、キャベツなどの下ごしらえ。鶏の手羽元に下味を付けクッキングペーパーで包む。準備完了。10分ほどジャガイモを蒸したあとにこれら食材を入れて、あとはテレビを見たり、PCをいじっていればいい。

テレビを点け、夕刊をながめてからリンダのもとに行った。あらためて観察してみようと思って、今までよりも近寄ってじっくり見た。花はどうやら小さな花が集まってヒマワリのように丸い花になっているのがわかった。一番外側が少し黄変し枯れ始めている。真ん中から新しい花芽が出て咲き、次第に外側に押しやられ最後は枯れて落ちるのだろう。この咲き方だといつまでも咲き続けることが可能な筈だ。小さな花の中を覗いてみたが、しべが無い。虫媒花ではないようだから恐らく昆虫を呼び寄せる蜜も無い筈だ。

風に花粉を運ばせる風媒花なのだろうかと見ても花粉も無いようだ。球根ではなかったし、種保存・繁殖の仕組みがわからなかった。オレは安易な推理、宇宙からの訪問者という思いを強くした。自分の精神状態を疑われるし、リンダのためにもこのことは決して誰にも喋ってはいけないのだと、改めて心に誓った。

作品名:リンダリンダ 作家名:伊達梁川