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リンダリンダ

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リンダが鉢から出てしまい、オレはまた鉢に戻そうとするがリンダは両足を突っ張って入るまいとする。「ほら、もう寝る時間だよ。おとなしく入りなさい」
リンダはきゅきゅきゅと鳴いて抵抗する。オレは両足をたばねて鉢に入れた。ああ、土がない。一瞬のためらいを待っていたようにリンダがオレの手を振りほどき、走り出した。オレは追いかけようとするが、足に根が生えたようにその場を動けなかった。ああこまったなあ、どうすればいいんだ……という所で目が覚めた。夢を反芻しながらオレはもう一度あの肢体を見たいと思った。しかし、しばらくその行為はしないほうがいいだろうと冷静な自分もいる。何度も引き抜いて、結果枯れてしまってはいけないと思ったのだ。

起き出して着替えをしながらちらっとリンダの方を見る。何事も起きてはいず、夕べのままの姿でそこにあった。そうだよなあ、足のように見えたって所詮植物の根だ。と、私は安心したような残念な思いの混じった気持ちでリンダリンダの側に寄り、じっくり眺めた。リンダが花も葉も閉じていることに気付いた。カーテンを開き、曇りガラスからの間接光があたるようにした。

ふーん、夜は閉じて寝るのか、そうだ水はどのくらいの頻度であげたらいいのだろう。夏だから毎日だろうなあ、と私は渇き具合を知るために土に触ってみた。ついでにリンダの肩と思える場所に触ってみた。

「きゅっ」
鳴いた! 確かにリンダは鳴いた。そしてゆっくり葉が開き降りる。そして花も開き始めた。びっくりしたのと嬉しさと好奇心とが混ざった感情のまま、思わず「おはよ」と言葉が出る。気分は動物というかペットだ。

「水欲しい?」
動物でもなく、まして言葉がわかる筈も無いのだが、私は自然にそう尋ねていた。
当然のことなのだが、返事が返ってくることは無い。それなのにちょっと残念に思ってしまったが、リンダの花が頷くように動いた気がした。

「そうかそうか」
私は嬉しくなって、リンダリンダ〜リンダリンダリンダァとブルーハーツの歌を口ずさみながらベランダに出た。ベランダに洗濯機のためか水道の蛇口があるのだ。私は如雨露に水を入れ、リンダにかけてやる。

もう完全に開いた花と葉に水がかかり、色が鮮やかになった気がした。
「もう、いいかな?」
これは独り言だったせいか、リンダが頷くことはなかった。
どういう場合に鳴くのだろうと私は考えてみた。一番最初は植え換えのために引き抜いた時だ。そして……さっきは触った。私は好奇心からリンダの濡れた肩に触ってみた。鳴かない。そうっと撫でてみる。

「きゅいい」
か細い声が聞こえた。私はもう一度撫でて見る。
「きゅ」
短いが鳴いた。私はしつこく撫でて見た。
「き」
さらに短く一瞬の鳴き声だった。ああ、何度も続けると疲れるのかもしれない。
「あ、ごめんよ、疲れた?」
リンダは微かに花を揺らした。

私はわき上がる感動と好奇心、微かな畏れをリンダに対して感じていた。本能的にこれは多言してはならないと感じた。絶対に他人に知られてはならない。隣の住人には聞こえないかと思うが、一人暮らしなのにやたら会話が多いと不気味がられるだろうとも思った。リンダへは囁くように話しかけ、やたらと触らないように肝に銘じた。

連休は今日まで、明日からは会社に行かなくてはならない。そう思い、映画館にでもゆこうかと思っていた予定を、読書とテレビで過ごすことにした。もちろんリンダの側で。

作品名:リンダリンダ 作家名:伊達梁川