リンダリンダ
「ああ、びっくりした」としかオレは言えず、何も考えが浮かばなかった。もう帰ってくれとも言えずブ黙って中に入った。キッチンは狭いので椅子は置いていない。座る場所はパソコンが置いてあるデスクの椅子だけだ。菜美をそこに座らせ、エアコンを点けてオレはとりあえず風呂場に行ってみた。
リンダは寝ているようだった。葉(腕)も下がっていて、花(顔)が仰向けだ。さて、どうしようとオレは考えて、土が入ったまま空になっている鉢を持ってくることにした。寝ている間に菜美が見ても不自然でないような鉢植えにするためだ。
菜美は座っては居ず、興味深そうにあちこちを眺めていた。オレが近付いてゆくと
「うん 片付け甲斐がありそうだわ」
菜美は相変わらずあちこち眺め回している。
「だから、言ったじゃ無い、人様に見せる部屋じゃ無いって」
菜美はまだ女の痕跡を探しているのだろうと思いながら、空の鉢を風呂場に運んだ。
リンダが眠りから覚めたようで、葉と花が持ち上がり始めていた。オレはリンダが足を踏ん張ってイヤがるのを予想して足を押さえてから鉢に押し込んだ。
「キュキュッ」
リンダが何か言っている。
「しっ おとなしく入ってなさい」
オレは周りの土でリンダを抑えた。どうにか不自然でない鉢植えになったようだ。
「何か言ったぁ」
菜美の声がする。
「いや、ひとりごと」
オレは鉢植えを持ったまま、迷った。お風呂場に鉢植えか、不自然かな、ベランダに置いたほうがいいかと。菜美の足音がする。彼女のことだ、掃除をするという名目で全部見てまわるかもしれない。ベランダが安全だろうと決めた。
オレは鉢植えを持って風呂場を出た。
「あ、何それ可愛い!」
菜美がリンダに触れそうになるのを躱しながらベランダにリンダを置いた。すぐに部屋に戻り、菜美の気をそらすために夕食の話をした。
「冷蔵庫見せて、簡単なものならすぐ出来るよぉ」
まったく会社での態度と違う菜美に圧倒されるように、二人で料理を作っていた。
それは悪くない時間だった。少しだけ菜美の子ども時代の話を聞いたことがあるけど、まだ性格のすべてを把握できている訳では無い。行動のひとつひとつに新鮮な驚きを感じることもある。このまま一緒に暮らしてもいいかなとも思えた。でもリンダのことを考えると、その思いは複雑になる。これってやっぱり三角関係じゃないのかとオレは苦笑する。
冬はコタツ、夏は卓袱台にしている上に料理が並べられ、食べ始めた。両親が働きに出ていた菜美は中学生くらいから料理をしているという。そして、その両親をあまり尊敬してはいないと言った。あまり往き来はしていないようだった。
食後、並んでテレビを見ながらいつしか二人の身体は接触を増し、抱き合っていた。