詩集 風の刻印
白の残像
あなたの瞳に刻まれた白の残像
光り輝く夜に地上に舞い降りた青白い星
両腕を広げて受け止めた絶望の旋律
荒野に響くモスクの慟哭
焼けた大地にひれ伏した手
腕は熱に焼かれ灼熱の傷痕に誇りを残す
尖塔の先に開かれた世界への倦怠
顔を上げると目の前に光
瓦礫の中に残る涙に
あなたは叫んだ
地上に降り注ぐ星の光
身体に降り注ぐ原子の光
侵食する未来
切り離される脚
光は光を奪い
闇は闇を呼び込んだ
地に突いた手が吸い込む声
あなたはその声に弾かれた
その振動に耐え切れずに
その思いを支えきれずに
テントの上を泳ぐ銀の魚
翼を広げ腹から落とす糞
ああ、糞に綿毛がついた
降りてくる
降りてくる
地に着いた
海底に
私たちの家に
もうどこにも行くことが出来ないというのに
深い深い海溝の一番底に
黒い熱が噴出す地の果ての
海底をのぞいて他に行くところがないというのに
深海魚は深海に置いておいて
あの人たちの放つ光は強すぎる
あの人たちの吸う空気は強すぎる
どうかそうっとしておいて
暗い暗いモスクの中で
瓦礫に埋もれた祈りはもう届かない
深い深い深海は
天の声さえ届かない
孤独に包まれ光を失い
あなたの腕は希望を探る
あなたは喉を震わせて
周りの原子を揺らすけれども
深い深い深海は
透き通るあなたの声を吸い込んで
あなたを取り囲んだ熱い海水に響く振動は
形を変えて
濁った海流に流されて
ああ、
消えてしまう
消えてしまう
あなたと全てを繋ぐものが壊れてしまったから
私たちはもう上がれない
ずっと、ずっと、海の底
失った脚はもう歩みを踏まない
前には進まない
遠い東の空に昇る光を見ることすら叶わない
だって
あなたの瞳はもう深海にすら住めないのだから
あなたの瞳の映すものは
暗いまぶたの裏側と
白い残像
それだけなのだから