詩集 風の刻印
土の下
時間をなくしてさまよう空気
痛みと嗚咽
ただれる地面
光のない雲
求める手足
のぞく白い歯
落ちるケロイド
存在は
亡者の慟哭の中にある
ああ、真夏の昼後に消えた太陽
光が消した温かな光
額を溶かす瞬間熱風
わからない
わからない
私はどこに眠ればいい
私はいつに起きればいい
ああ、分からない
私の意識はまっくろで
死に向かう生にしがみつくだけ
痛いのは嫌
熱いのは嫌
となりの子供の息が止まった
私の息はいつ止まる
熱い岩が髪を焼く
熱い瓦礫が腹を焼く
あの子はどこ?
何の下?
彼女はどこ?
どんな影?
聞こえてきたよ
泣く声が
母親の声
赤い乳
あの子を抱いた
優しく抱いた
でも吸わないの
赤い乳
だってその子はもう硬い
教えたいのに声出ない
なんて熱いの私の喉
かすれた息で舌を動かし言うけれど
ああ、舌がない
知らなかったの舌がない
だって私の身体は全部痛い
舌がなくなることなんて
痛みの中のひとつでしかなくて
必要もなくて
未来もなくて
ここは熱くて
垂れる指先
私は誰
ねえ、赤いお母さん
その子はね
もう動かない
私もね
もう動かない
土の下