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Shiny Blade

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 明るく、そして嫌味を感じさせる少女の声。
 見上げると華美で重そうな黒ずくめの服に身を包んだ子が立っていた。
「誰?」
「わかんないかなあ。この状況で」
 そう言うと少女は身をかがめ、整っているが青白く残忍そうな印象を抱かせる顔をずいっと寄せてくる。
「あんたをさらったは、ん、に、ん」
「あ……」
 そうか、あの時誰かに襲われて、それで……。憐の記憶のかけらが次第に埋められていく。
「なんでこんなことを? 私の家、そんなにお金ないよ」
「その前に、逆に聞くけど」
 質問に質問で返すのか、などと言い返す場合ではない。
「あんた、美奈の仲間?」
「仲間……何の?」
 美奈の名前が出てきたことへの疑問より、質問の意味がわからないことが先に立つ。
「とぼけてるわけでもなさそうね。ま、どっちだっていいんだけど」
「どういうこと?」
「あんたねー。少しは自分で考えなさいよ。あんたは美奈を釣り出すためのエサなの。人質なの」
「エサ?」
「美奈とあんたは少なくとも見知った仲。あんたのことは知らせておいたしじきに助けに来るわよ、美奈は」
「なんで美奈ちゃんが? 警察に頼むよ、普通」
 はあ、と少女はバカにしたようなため息をつく。
「警察じゃ相手になんないわよ。あたしらは」
 にたり。勝ち誇ったような笑みを浮かべた。

「ほうら、噂をすれば影」
 薄暗い景色の中にシルエットが浮かび、それが近づいてくる。
 美奈だ。本当に美奈が来た。
「来たぞ、冥」
「あーら、思ったより早かったじゃない」
 冥、と呼ばれた少女は憐の首を掴んで体を起こすと美奈の方を向いた。
「ぐ……げほっ」
 見た目からは想像できない程の強い力だ。
 憐は息をつまらせる。
「そんなにこいつが大事?」
「巻き込んだのは私の責任だ。ケジメはつける」
「はっ、くっだらない。これだから人間の感情ってやつは」
 冥は吐き捨てるように言った。
「何っ?」
「私があんたならこんな見え透いた手に釣られない。いや、そもそもあたしらに深入りしてきた時点で口を封じちゃうけどね。足手まといだから」
「貴様……」
「生ぬるいのよ。口先でカッコつけるばかりで」
「黙れぇっ!」
 美奈はその目に冥への憎悪をたぎらせながら叫んだ。
「貴様ら「サベイター」によって父も、母も……数々の人が死んだ! それが許されるものか! 貴様らが人間より上なものか!」
「御託はどうでもいいのよ。人類があたしらによって淘汰されることに代わりはないんだから」
「ならば、貴様らの野望は私が打ち砕く!」
「やってごらんなさいよ……できるならねぇっ!」
 冥は指を片手で指を打ち鳴らし、それが始まりの鐘となった。
 地からいくつもの黒い塊が現れ、人、いや、人に似て非なる化物の姿へとその形を変え、そして美奈を取り囲んだ。

 断じて人ではない。同じ等身を持ち二本の足で立ってこそいるが、深淵のごとき黒い体、くぼみで作られた目、そして鋭く尖った爪を持っている。
 例えるならこれらはサベイターの兵士、冥は幹部か指揮官か、といったところだ。
「くっ……」
 徒手空拳で今日までサベイターと戦ってこられるわけはない。
 美奈は他人には持ち合わせない「力」を持っていた。
「行くぞ!」
 美奈は右手に意識を集中される。
 その手にまばゆいばかりの灯火が宿り……瞬時に青く輝く光の剣が形成された。
 小ぶりだが柄の両端にそれぞれ刃を持つ。
 前方から怪物が向かってくる。その手の爪を振りかざす。
「せやぁっ!」
 美奈は最小の動きでそれをかわし、腹部を剣で斬りつける。
 背後から迫る敵意を感じ、もう一端の刃を振り向きもせず突き立てる。
 的確にかわす。跳ぶ。そして斬る。
 これこそが「ブラスター」、爆発的な感情のエネルギーによって放たれる力である。

「な……に……どうなって……るの……」
 何一つわけもわからないまま、憐は冥に首を掴まれながら戦いを眺めるばかりだった。
「あんたはわかんなくていいのよ」
「ぐ……」
 冥は手の力を強め、さらに首を絞める。
「ま、でも、暇つぶしに教えてやってもいいわ。冥土の土産ってやつ?」
 その気まぐれにより、今度はふっ、とその力が弱まった。地に足がつく。
 とはいえまだ手も足も拘束されたままだ。逃げられない。
「まずね、あたしらは人間なんかとはぜんぜん違うの。その辺はハッキリして」
「人間と……違う?」
 あの化物達だけじゃなく冥もか、ということでもある。
「じゃ、あなた達は誰? 何者なの? なんでこんなことするの?」
「やめてよね〜いっぺんに質問するのは」
 冥はバカにしたようなため息をもらす。
「一言で言うなら、そうね。あたしらはあんた達がむりやり抑えてる心の闇、わだかまり……はっちゃけたい願望によって生まれたの。
「私達が?」
「そう、あたしらはあんた達なのよ」
「こんなこと……こんなこと、私は望んでない」
 憐は自分に言い聞かせるように言う。……少なくとも、私は。
「そう思ってるのは自分だけってね。誰かを傷つけたい、誰かを困らせたい、恨み、妬み……誰も逃れられないもの。そういう思念が形になったのよ」
 冥にそう言われて憐はハッとする。果たして自分がそのような感情を抱いたことはないと胸を張って言えるだろうか。
 そして、自分がよかれと思ってやったことが人にとっても必ずそうであると言えるだろうか。
 例えば、美奈の無言の警告に従わなかった結果、それは現実のものとなってしまった。
 美奈は本気で怒っていたのだ、自分なりに皆を守ろうとして。
「メンドクサイでしょ? そうやって本音を隠してるのって。だからあたしらがあんた達に成り代わってやろうってのよ。人間を殺しまくることでねぇっ!」
 関係ないとは言えない。責任は、憐自身にもある。
「で、あたしらは純粋な感情を手に入れたおかげで感情をエネルギーに変換する力、ブラスター能力を手に入れたわけだけど、どういうわけか人間にも能力者がいくらかいてねえ。手を焼いてるわけよ、ほら」
 冥は美奈を親指を使って指し示す。戦闘が始まってどれだけの時間が経っただろうか、美奈の動きが鈍っていることが憐の目にもわかる。
「イマイチ形になりきれてないザコじゃ相手にならない。こういう風に数をかけりゃ話は違うけどね。あんたが人質な以上逃げらんないし、妙な真似はできないし」
「卑怯だよ……」
「ほら、そうやって。なーんで自分で自分に足かせつけちゃうかな。タテマエ? バカバカしい。理解できないって」
 フフッ……と笑みを浮かべる冥。
「つ、ま、り」
「ぐあああっ!!」
 叫び声が聞こえる。美奈の体が化物の包囲から投げ出され、地に叩きつけられる。
「人間より格上ってことなのよ、あたしらサベイターは」

「美奈ちゃんっ……!」
「おっと、あんたにはまだ利用価値があるのよ」
 憐は思わず前のめりになろうとするが冥に止められる。
「く、うう……」
 美奈はよろよろと立ち上がるが今にも崩れ落ちそうだ。
「ねえねえ美奈ちゃん、ちょっと取り引きってやつをしない? こっち向いてさ」
「取り引きだと?」
 化物の動きがピタリと止まる。一応は本気のようだ。
作品名:Shiny Blade 作家名:てっく