小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

Shiny Blade

INDEX|1ページ/3ページ|

次のページ
 
 五月。ゴールデンウィークも終わって夏が近づいてくるのがなんとなく感じられるような、そんな天気。
 結葉憐は長めの髪を揺らし、朝の日差しを一身に浴びながら高校に通学している。
 なーんていい天気だろ。こんな日に心躍らない子はいないに違いない。
「おっはよー、美奈ちゃん!」
「…………ああ」
 いた。憐はマンガみたいにずっこける。
 そうだ。彼女は――時雨美奈はいつもこんな調子だった。
 そのままつかつか歩きさろうとする美奈に憐は追いすがる。
「ま〜たまたまたまた、暗い暗い! こんないい天気なのにさっ」
「関係ないだろ」
「つか、高校入ってから友達できてないの美奈ちゃんくらいでしょ。クラス副委員長としてそれはさ」
「必要ない」
「最近不審者とか通り魔とか変な事件多いよ? 一人じゃ危ないって」
「私なら勝てる」
「ぷっ……あはははっ」
「何がおかしいのかわからん」
 憐がちょっとツボにはまってしまっている間に美奈は先に行ってしまった。
「またやってたの、憐?」
「あ、真子ちゃん……」
 さらに追いかけようか迷っている内に親友の真子に声をかけられてしまう。
「本人がああ言ってんだから別にいいじゃん」
「そ、そうかな……?」
 しつこすぎたかもしれない。憐は反省しつつも再び学校へと歩いた。

「だからさ、なんでそんなアイツにこだわるわけよ」
「だって、気になるもん」
「いやいやムダだって。あの近寄りがたいオーラでさ」
 真子は学食のパスタをフォークに絡めながら言う。
「ジャマなんだよ、アイツにとってあたし達は」
 高校に入学してからというもの美奈は異様なまでに他者との関り合いを避けている。
 最初こそ、目鼻立ちのくっきりした端正な顔立ちと短く切りそろえられた綺麗な髪から注目を集めはしたが、まさに寄るな触るなといった感じで周囲の者たちを突き放す。
 そんな彼女にあえて近寄ろうとする者は今やすっかりいなくなってしまった……ただ一人を除いて。
「あっ美奈ちゃーん! 一緒に食べよっ」
「い、言ってるそばから……」
 美奈を見かけた憐はまたしても積極的に声をかける。真子の呆れ顔なんてお構いなしだ。
 しかし美奈は憐に一瞥をくれただけでさっさとどこかへ行ってしまう。
「ほらやっぱり」
「でも、けどさ、あんな感じなのは絶対深いわけがあるんだって! 普通あり得ないよあんなの」
「……はあ、あんたそういう所あるよね」
 「そういう所」がどういうものかは憐は自覚している。
 クラス委員長に率先して立候補したのは憐だったし(後から手を挙げた子に投票で負けたが)、掃除の時間は誰よりも積極的に動く。
 ポイ捨てされている空き缶を拾うのは当たり前、大事そうな落とし物をいちいち交番に届けるのは当たり前、お年寄りに席を譲ろうとするのは当たり前。
「そういうの、やっぱウザがられるって」
「そうかもしれないけど……でもおかしいよ、それ」
「えーとなんだっけ、ほら、出る杭は打たれるってやつ」
「私たぶん、いいことしてると思うんだけどな」
 それでも、美奈ちゃんにとっては「ウザい」んだろうか。美奈は悩む。
 とはいえ、絶対に放っておいちゃいけない気もする。理屈じゃない、言うなれば直感と好奇心だった。
「あ、そうだ真子ちゃん。放課後のことだけど……」

 放課後のチャイムが鳴る。下校時間だ。
 夕暮れの赤に染まった空が美奈を照らした。
 普段なら真子と一緒に帰るところだが今日は用事があるといって断っている。
 う、嘘じゃないよっ。私嘘なんてつかないからっ。
 ぶんぶんっと首を振る憐。そう、大事な用事なことは確かだ。
 来た。校門から美奈が出てくる。こっそり待ちぶせしていた憐はそれを見て後ろからついていく。
 そう、いわゆる尾行だ。
 美奈ちゃんはどこに住んでいるんだろう、どんな暮らしをしているんだろう。それで美奈について何か分かるかもしれない。
 アドレスでも聞き出せれば手っ取り早いだろうがそれは全くの無駄に終わった。
「ガード固いんだから」
 向こうが守りの一手ならこっちは攻め続けるまでだ。
 さて、尾行についてはドラマか何かで見た知識しかない美奈である。
 相手に気付かれないように付かず離れずの距離を保って、曲がり角でどっちに曲がったか見逃さないようにして、それで、それで……。
 ……めんどくさい。憐は五分と持たず音を上げた。
 思ったより面白くない上に根気がいる。しょせん興味本位じゃ飽きるのも早い。
 そうだ、こういうのは堂々としてたほうが逆にバレないっていうし! そう思いついた美奈はいつもと変わらないように歩いてみせる。
 私にはこれくらいがちょうどいいんだ、普通に普通に。自分に言い聞かせる憐。
 しばらく黙々と歩く。
 暇だ。話もできない、ケータイもいじれない。ただ万が一にも美奈を見失わないように歩くだけ……。
「……って」
 いない! 確かに目の前に居たのに。美奈は不思議に思う。
 ってか、ここどこ? どうやら人気のない路地裏、的な所だ。
「結構ヘンな所に住んでんのかなぁ、美奈ちゃんって」
「なわけないだろ、バカ」
「えっ」
 後ろから声がした。美奈の声だ。
 振り返ると美奈は仁王立ちでとげとげしい顔をしている。いつの間に回りこまれちゃってたんだろうと美奈は疑問に思った。
「私がここまで誘い込んだんだ」
「あ、はは……バレちゃってた?」
「あれだけ堂々としてたら誰だって気づく」
「えへへ……」
「とにかく、もう帰れ。それでもう二度と私に関わるな」
「なんで」
 尾行がバレて怒られているのはわかる、けど。
「なんでそうやって、誰かを遠ざけようとするの? つまんないよ、そんなの」
 美奈は少しためらったそぶりを見せると、
「……私に関わるとロクなことがない」
 目をそらしながらぽつりと言った。
 憐にはどことなく悲しげな表情にも見えた。

「まいったなぁ。帰り道わかんないよ」
 作戦失敗。美奈と別れた後、憐は途方に暮れていた。
 右も左も分からない地をケータイのGPSを頼りにウロウロ。
「美奈ちゃんに聞いておけばよかったかなあ」
 その時。後ろから軽く肩を叩かれる。
「誰?」
 ひょっとして美奈ちゃん? 
 憐がそう思った瞬間、突然みぞおちの辺りに強い衝撃を感じた。
「がはっ……」
 殴られた……? なんで? 誰に? 全く状況がわからない。
 苦しい。体がひとりでに崩れ落ちる。意識が遠のく。
 まぶたが落ちるその時、誰か――美奈ではない――がニヤリと笑っているのが見えた。

 うかつだった。美奈は走りながら後悔する。
 「奴ら」がいつどこで機会をうかがっているか知れたものではないというのに。
 ああして口をきいていただけでも「美奈に関わった」ことになるというのに。
「すまない……」
 美奈は目的地に向かってなおも走り続けた。

「はっ!」
 憐は目を覚ました。未だもうろうとする意識をできる限り働かせ、記憶をたどる。
 ここは……学校のグラウンド。憐はそこに座り込んでいる。時間は……もう夜。
 腕を動かそうとして……動かない。両腕がロープか何かで後ろ手に縛られていることに気づく。両足もそうだ。
「あっ、お目覚め?」
作品名:Shiny Blade 作家名:てっく