出会いは衝撃的に(後半)
浅野と美絵の父は、そのあと暫くは口を開いたままでいる。
「何よぉ。そうだったの?!」
美絵は呆れたように云った。浅野は美絵に向かい、
「絵の先生と生徒だったんだよ……」
浅野は高校一年生のときから一年半余り、村田久彌から油絵と石膏デッサンを習ったのだった。
「十年です。あれから……」
村田は感情を込めて云う。
「お父さんが亡くなって、美大を諦めたんだよな」
「……ご無沙汰してました」
浅野が高校二年の秋に、彼の父親は急性の癌のために命を落としたのだった。身体の具合が悪くなって救急車に乗せられてから、二週間ほどで急逝した。
「浅野君は半年前から仕事でタクシーに乗ってるそうだね。ばかな娘が追突して、申し訳ない」
村田から頭を下げられ、浅野はまた驚かされている。美絵が父親にそんな話をしていたとは知らなかった。
「もう、八箇月になりました。あの追突は大したことはなかったんですが、しかし……」
「首と肩と背中と腰が痛くなったそうだね。まだ痛みは消えてないだろうね」
美絵の父は困惑している。
「いえ、もう殆ど痛みはおさまりました」
「それは良かった。美絵はね、浅野君の嫁になりたいそうだ」
村田は笑顔を見せて云った。
浅野の驚きは頂点に達している。
「パパったら……」
美絵の慌てている顔が紅くなった。美絵には驚かされっぱなしだと、改めて浅野は思った。軽いめまいのようなものを覚えながら、浅野は決然と云った。
「出会ったときから私も美絵さんとの結婚を希んでいました。父親としてはどういうお考えですか?」
「浅野さん……」
美絵も驚いて浅野の名を呼んだ。そして、彼女のまぶたから涙が溢れ出た。
作品名:出会いは衝撃的に(後半) 作家名:マナーモード