出会いは衝撃的に(後半)
山道に車を走らせた時間は一時間くらいだっただろうか。最後の急な上りを超え、砂利を踏みしだいて入った駐車場の奥は、湖を見下ろす展望台になっていた。車から出ると真冬並みの冷気に包囲された。そのときにはもう、雲海の彼方に浮かぶ雲の切れ端の幾つかが、濃厚な紅味に彩られ始めていた。
「わあ、寒いよぅ」
「本当だ。凍死しそうだ」
浅野は美絵の背に腕をまわして抱いた。
「ありがとう。わたしね、御来光は初体験よ」
「あびらうんけんそわか!」
「何よ、それ」
「修験僧がさ、そんなこと云うんだよ。あれは滝に打たれるときかなぁ」
「そう云うと願い事が叶うのかしら」
「そうかも知れないね」
二人とも顔をこわばらせながら笑った。
「あびらうんけんそわか!智明さんと結ばれますように」
「あびらうんけんそわか!美絵ちゃんと結ばれますように」
「あっ!出たわ。御来光が出た!」
「来た来た!御来光だ!」
二人はハグをして喜び合った。そして、浅野は美絵の唇にキスをした。美絵は泣いた。浅野のまぶたからも涙が溢れ出た。
作品名:出会いは衝撃的に(後半) 作家名:マナーモード