出会いは衝撃的に(後半)
「……旅行?」
「家族全員で行っちゃったの。ここだけの話だけど、海外にね、みんなで逃亡したらしい」
浅野は数箇月前に追突された時のような衝撃を感じた。
「……と、いうことは、犯罪がらみ?」
「贋作を売りさばいていたらしいの。村田久彌氏は名画の偽物を描いて売っていたのよ。それでひと財産つくって海外へ逃げちゃったのね。家族をつれて」
「本当に村田さんのお父さんが偽物を描いて売っていたのか?」
「そうみたいよ」
「それはニュースになっただろうね。全然テレビを見ないから、知らなかったな」
もう二度と美絵には逢えないのだと思った浅野のまぶたから、涙が溢れ出た。
「先週あたりはワイドショーで随分騒いでたわよ。何十億円とか、そういう収入になっていたみたいね」
亜美香も眼を潤ませ、浅野の手を握った。
「あっ!昔、俺の絵を模写されて驚かされたことがあるよ」
浅野は無理やり笑顔をつくって云った。
「すごーい!浅野さんも世界の大家と同列じゃないの!」
そうは云うものの、亜美香は涙声だった。
「しかし、あの観察眼は凄いと思ったよ。油絵で写真の模写をしてね、元の写真より写真らしく描いてしまうんだからね。俺も真似したことがあったけど、あんな風には描けなかった」
「ここだけの話よ」
亜美香はすぐそばの席にいながら浅野に向かって手招きした。浅野は左の耳を彼女に接近させた。
作品名:出会いは衝撃的に(後半) 作家名:マナーモード