出会いは衝撃的に(後半)
浅野は明るい気持ちになり、ワインを飲んでから横になった。
*
その居酒屋は高層ビルの上にあった。ガラス張りの向こうに見下ろす暗い風景の中で、ひときわ明るく、照明に輝く区域があった。競馬場だった。夜の開催をしているらしい。
「あそこで走ったことがあるのよ」
浅野の左隣の席で肩を並べる亜美香がグラスのワインを飲み干したあと、真剣な顔でそう云った。
「競輪場じゃないの?」
競馬場の隣の競輪場のレースコースの内側は陸上競技用のアンツーカーのトラックになっており、浅野も中学生の時に短距離走の選手として出場したことがあった。
「騎手だったの」
「騎手?じゃあ、競馬場だね。凄いね」
「すぐにやめちゃったけど。二年間勝てなかったから」
「そう。残念だったね」
「調教師も三年間やったのよ」
「若いのに、凄いね」
「そのあとが理学療法師」
「失礼なことを云うけど、意外に若くないんだね」
そう云ってから浅野はサイコロステーキを食べた。
「浅野さんと同年齢よ。そうだ、美絵ちゃんはね……日本にいないわよ」
作品名:出会いは衝撃的に(後半) 作家名:マナーモード