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帰路

 乗り込むと、運転手は、早朝フラフラと国道を歩く客を珍しそうな目で見ていた。

透は、最寄りの駅まで行ってくれと頼んだ。

「最寄り駅までは30分くらいかかりますよ」と運転手が言った。

「お客さん、 これから東京にお帰りですか」

「ええ、まあ」

運転手が透に興味を持ったらしく、やたらと話しかけてきたが、透は適当に相槌を打った。

助手席のシートの背にタクシー会社の名前があった。

「西伊豆観光」

はるかは、死体を埋めるために、伊豆方面に向かって欲しいと言っていた。伊豆に土地勘があったのだろう。
最初から、あの断崖で光男の死体もろとも海に捨てようと計画していたのだ。

しかし、まずいことになったと、タクシーに揺られ適当に運転手と会話しながら、透は考えていた。

 車が発見されれば、登録番号から、自分の車だとすぐにわかる。
警察はまず車の持ち主である自分を疑うだろう。
光男を殺し車のトランクに隠し、海に捨てたと。

 だが、そうなれば俺は、本当のことを全て喋る。
果たして、それを警察が信じるかだ。
はるかが光男を殺ったという証拠があるだろうか。

凶器の包丁は死体に刺さったままだ。
指紋は自分が拭き取った。

はるかが光男に襲われていた唯一の証拠写真は。車と共に海に消えた。
たとえ見つかったとしても、復元は難しいだろう。

はるかは、写真のことで光男に脅されたと言っていた。しかし、その写真は、既にはるかが回収しているに違いない。

そうなると、はるかが光男を殺したと立証するのは、難しいかも知れなかった。

 厄介だな……

午前6時すぎ。気がつくと、駅に着いていた。
透は料金を払いタクシーから降りた。

JR線だが、それ程大きい駅ではない。取りあえず、東京まで切符を買った。

 ホームで列車を待っていると、数名の男子学生の先客がいた。
短髪で、スポーツバッグを持っている。おそらく部活の朝練か何かだろう。背の高さや顔付きからして高校生に見えた。

彼らは黒の詰襟で、上着の合わせにはエンジの縦のラインの入った、変わった制服を着ていた。

 今時、詰襟の制服とは珍しいな。

彼らと目が合わないように、透は顔を伏せた。学生達は透を一瞥したが、気に留める様子もなく、ゲームの話に講じていた。

作品名: 作家名:minano