蝶
コーヒー
2人と死体を乗せた車は、順調に走り首都高から東名高速に乗った。
日曜の夜の東名は空いている。スピード違反にならないように、慎重に運転した。
しばらく走ると、はるかが休憩したいと言いだした。
仕方なく、一番近いパーキングエリアに立ち寄った。
駐車場は空いていた。大型トラックがポツポツと駐車している。誰も、透とはるかを怪しむ人間はいない。
透は早く死体を始末して、さっさと終わらせてしまいたかった。
はるかがトイレから戻ってくると、透に紙コップに入ったコーヒーを差し出した。
「そこの自販機で買ったんです」
こんな時に、コーヒーか。
透はそう思ったが、差し出されたため、仕方なく受け取った。
妙に冷静なはるかに苛立ちを覚えながら、コーヒーを飲んだ。
いつもより苦い気がしたが、味などわからない。気が急いていて、それどころではなかった。
はるかが「わたしが運転替わります」と言った。
「それはだめだ。万が一オービスに顔を撮られたらまずい」
「スピード違反しないですから、大丈夫です」
「おい、君が運転するのはまずいと言ってるだろう」
だが、頑としてはるかは自分が運転すると聞かなかった。はるかは、車から降り何度も運転席のドアを叩く。
「やめろ、怪しまれるだろう」
いったい、はるかは何を考えているのか。こんなくだらない押し問答で、何十分も時間のロスをしている。
まるで時間を稼いでいるようだった。
次第に、透は瞼が重くなるのを感じ始めていた。
「だめだ…」
そう言いながら、頭がやけに重かった。
体中の手足が重く感じられる。
はるかが、運転席側のドアを開けるように言う。
「替わりますから」
はるかの声が遠くで聞こえる気がした。どうしようもなかった。このままでは、運転などできるはずがない。透は仕方なく一旦車から降り、ふらふらとしながら、助手席に座った。
「睡眠薬を入れたのか… 」透の声がかすれた。
はるかは何も答えず運転席に座り、じっと透を見ている。
「何で睡眠薬を…… 」
遂には、透の視界から、はるかが消えていった。