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連鎖

はるかは首を振りながら言った。

「デタラメ言わないでください。そんなことをして、あなたがその場で警察を呼ばない保証なんてない。どうして、あなたが私に協力してくれるって思うんです? そんな危険なことするはずないじゃないですか。下手をすれば、警察を呼ばれていたのに」

「君には俺が君に協力するっていう確信があった。いや、万が一俺が警察に言ったとしても、その時点では、君が正当防衛で光男を殺した犯人だ。浩一のことは誰も知らない。君には自分が罪を被るその覚悟が出来ていたはずだ」

「わたしに確信があったって…? 」

「そうだ。君には俺が協力するっていう確信があった」

透はしばらく黙っていた。はるかのその確信がどこから来るのか、今、ここで言及するつもりはなかった。

「とにかく、俺は君の話を信じ込み、死体の始末を引き受けた。君の計画では俺の車で死体を運び、山に埋める筈だった。
だが、途中で浩一君が車で俺たちの後を尾けていることに君は気がついた。だからパーキングエリアで停ってほしいと言ったんだ。
そして、トイレに行く振りをして、尾けてきた浩一君と隠れて会った。
彼は俺に睡眠薬を飲ませろと、君に薬を渡した。
浩一君が何をするか、君にはおおかた検討がついていたはずだ。
だが、彼を止める術も無かった。
言われるままに、俺に睡眠薬入りのコーヒーを渡し、君は浩一君の乗ってきた車で東京に帰った。
そして、浩一君に言われたとおりに、シエラでアリバイを作ったんだ」

はるかがシエラに来るとツイッターに情報を流したのは、恐らく浩一だろ
う。

はるかは青ざめ、うなだれていた。

「君はずっと浩一君を見捨てたと、自分を責め続けている。だけど、君だって子供だった。君には何の責任も無い」

はるかは激しくかぶりを振った。

「わたしがずっとそばにいれば、浩ちゃんはああならなかったんです」

「浩一君は、暴力的な大人に育った。それを君は自分のせいにしているが、関係ない。浩一君の問題なんだ」

暴力の連鎖だ。ドメスティックバイオレンス、つまりDVは、子供が被害者の場合、その子供に連鎖する場合がある。

暴力を受けて育った子供は無意識に暴力を容認するようになる。

だが、それはわずかなケースなはずだ。
浩一が暴力的な大人に成長したことが、子供の頃に受けたDVに原因があるとは言い切れない。

確かに、子供の時に、たった一人の肉親である姉が自分を置いていったことは、浩一にとって相当なショックだっただろう。

しかし、同じように子供だったはるかには、何の責任も無いことだ。

「浩一君は、光男が君を脅したから殺したのか」

顔をあげ、はるかは、うつろな目をしていた。

「18歳の時、興味本位で、ほんのちょっと光男と付き合ったことがあったんです。それで一緒にプリクラを撮ったりして。でもすぐに別れました。もちろん肉体関係なんて無かった」

「それで、今になって光男が、君を脅してきたのか」

「プリクラの写真を、週刊誌に売るって。それが嫌なら自分と寝ろって言われたんです。私は、勝手にすればいいって思ったけど、浩ちゃんがそれを知って」

はるかは肩をふるわせながら続けた。

「浩ちゃんは光男を許さなかった。わたし、止めたけど、でも……」

その時、部屋の隅でガタっと音がすると、若い男の声がした。

「殺されて当たり前だよ、あんな奴」

「浩ちゃん!  」

作品名: 作家名:minano