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真実

 はるかのマンションに到着した時は夕方5時を過ぎていた。
すでに、日は暮れはじめている。

西嶋はるかに電話をしたが、はるかは出なかった。

最新設備のマンションは、共有玄関に入るためにインターフォンを鳴らし、住人に中から共有玄関のロックを解除してもらう必要がある。

透はインターフォンを鳴らしたが、何も返事がない。

監視カメラで、誰がインターフォンを鳴らしたか住人にすぐにわかる。
はるかは、透だとわかると警戒し、ロックを解除する気は無いようだった。
居留守を決め込まれた可能性は大きい。再度鳴らしたが、応答がない。

そのまま立ち往生していると、住人らしき中年の男性が、カード式の鍵をセンサーにかざしロック解除して、自動ドアを開けた。
透は何食わぬ顔で、その男性の後へ続いた。

オートロック式のマンションは、こういった点がセキュリティ上の盲点だ。
住人の後に素知らぬ顔で続いて入ってしまえば、誰でもロビーには入り込める。

中年の男がエレベータで上階に行ってしまうまで、ロビーで時間を稼ぐ。
しばらくたって透もエレベーターではるかの部屋の階まで昇った。

部屋は15階だ。部屋番号も調べてある。今度は部屋のインターフォンを鳴らしたが、何の返事もない。

居留守なのか、本当に居ないのか。

何度も鳴らしたが誰も出ない。透は強行手段に出ることにした。

ドアを何度もドンドンと叩いて、「あけてくれ」と叫んだ。

この方法は2日前にも光男の部屋で使っている。近所に不審がられるからと慌てて出てくるに違いない。

そして、そのとおりだった。

ドアが少しだけ開き、はるかが顔を出した。

「近所の人が怪しむから、やめてください」

まるで、デジャビューだと透は思った。

「話がある」

「話なんてわたしにはありません、帰って」

「松田浩一君は、今、どこに居る? 」

透が切り札のようにその名前を言うと、はるかの顔が青ざめた。

「君の弟のこと、聞いたよ」

はるかはドアを開け、透に中に入るように促した。

「中に入って」

2日前と違うのは、ここがはるかの部屋であることだった。

部屋に入ると、簡素なダイニングセットと小さなソファとテレビがあるだけで、案外シンプルなインテリアだった。
飾り立てるのは苦手らしい。

はるかが立ったまま言った。

「弟のこと誰から聞いたの」

「それは言えない」

「警察に言うの? 」

「ああ、言わなきゃ俺が犯人にされるからな」

はるかはしばらく黙っていたが、意を決したように口を開いた。

「だったら、取引しましょう」

「取引? 」

「私が自首します。誤って光男を殺しましたって。正当防衛だったと。だから、あなたを殺そうとしたことは、お願いですから黙ってて下さい。私があなたの車を盗んで、車ごと死体を海に捨てたって証言します」

透は言葉が出なかった。はるかの言っている意味が理解できない。

「何を言ってるんだ。だったら最初からそうすればいいじゃないか。そもそも何で俺を巻き込んだ? いったい何を考えている? 」

はるかは目をそらして黙り込んだ。

「俺にはおおかた、検討がついてる。光男を殺したのは、君じゃない。浩一君だったんだ」

はるかの顔色がみるみる青ざめた。

「俺は、なぜ君が俺という他人を巻き込んだのか、どうしてもわからなかった。だが、君が浩一君を守ろうとしたのなら理解できる。君は、浩一君に死体の始末をさせるつもりなど毛頭なかったんだ」

透は続けた。

「君は、浩一君を守るために、自分が光男を殺したことにしたかった。その為に第三者の目撃者が必要だった。それが俺だ。恐らく、あの夜、俺が部屋に入るよりもっと前に光男は浩一によって殺されていた。君は、咄嗟に俺を目撃者に仕立て上げるべく、コンビニから雑誌社にFAXでタレコミをした。君は俺が契約している雑誌社がどこかは、事務所を通じて知っていたんだからな。」 

はるかの紫色をした唇がわなわなと震えていた。

「そして、あの銀色のスーツケース。随分用意がいいと思ったよ。あれは、あらかじめ、俺が来るまでの間に浩一君が用意したんだ。俺は君の策略通り、光男のマンションを張り込んでいた。そこで、ベランダで君が襲われているのを見た。しかしあれは、君と浩一君の芝居だった。俺を部屋におびき寄せるためと、君が光男を殺したと、俺に思い込ませるための芝居だったんだ」

作品名: 作家名:minano