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写真

 今朝、透が駅のホームで会った学生と同じ制服を、その写真の若い男は着ていた。

3年前、男は、あの付近の高校の生徒だったのだ。

 海まで続く緩い坂道。ガードレールのない崖。あたりは藪で民家も満足な街灯もなく暗い。

あの場所なら、誰かに目撃される心配も無く、崖から車を落とすという犯行に及ぶことが出来る。

つまり、共犯者には十分な土地勘があったということだ。

そして、この男が共犯に間違いなかった。

はるかとは一体どういう関係なのか。年齢は、はるかより2,3歳、年下だろう。

西嶋はるかのプロフィールでは、彼女は一人娘だ。兄弟はいない。
佐々木光男のように、学生時代に付き合った事がある男か。

 はるかにこの男のことを聞き出そうとしても、答えないのは明白だ。
男を探しだすしかない。

もう一度、あの町に行けば手がかりがありそうだった。
再度あの町をうろつくのは、自分にとっては、警察に見つかるリスクが伴い危険だが、他に手立てはなかった。

男に会わなければならない。


 K市は静かな港町だった。
既に夜は明けている。
透は中型バイクでK市に来ていた。電車よりも早い。

男が着ていた制服の学校を見つけ出すのに、そう時間はかからなかった。
列車の駅で、詰襟にラインの入った制服はどこの学校かと聞けば、駅員は心よく教えてくれた。

その高校は、駅から1キロほどの場所にあった。
7時にもなれば、生徒が登校してくる。

バイクを道の脇に寄せ、校門から少し離れた場所で待つことにした。
学生に聞き込みをするしか、方法は無い。

学校に問い合わせたところで、個人情報を教えるはずはないのだから。

7時をすぎると、部活の朝練があるのか、生徒達がぼちぼちと登校し始めた。

男子学生は、あの、詰め入りにラインの入った特徴のある制服、女子学生は今時珍しい、セーラー服だった。

あまり目立つと怪しまれるのだが、学生に片端から聞いてみるしかなかった。
数人の男子学生に声をかけ、はるかの後ろで写っている制服の男の写真を見せる。

学生達は、たいして透を怪しむことも無く、むしろ、西嶋はるかの写真に興味を持ったのか、次々に透の周りに寄ってきていた。

「おお、西嶋はるかじゃん」

男子生徒が写真を除き込み、口々に叫んだ。

「はるかの後ろにいる男、多分、君達の先輩だと思うんだけど、知らないかな? 」
透が聞いた。

学生は、首を振り、口々に「知らない」と答えた。

何人かに聞いたあと、ある男子学生が写真を覗きこんだ。
部活で日焼けしたのか、色が黒く、実直そうな学生だった。
彼は写真に写ったはるかを見ると、驚いたように

「おお、西嶋はるかだ」と言った。

「西嶋はるかの後ろにいるこの男、この学校の生徒だと思うんだけど知らないかな」

学生は写真に浅黒い顔を近づけた。

「ああ、松田先輩だ、この人」

「マツダ? 」

横で見ていた別の男子学生が言った。

「ああ、そうだ、そうだ、松田先輩だ。」

「彼は、松田くんて言うんだね。詳しく教えてくれないかな」

「俺らの2つ上ですよ。アプリコットの熱狂的なファンで有名だった」

「マツダ、何て言う名前?」

「松田…浩一だったかな、確か」

「彼は、西嶋はるかのファンだった? 」透が聞いた。  

「ええ。学校中で有名でした。時々、東京に、はるかを追っかけに行ってたらしくて。それで学校休んで、先生に目つけられてたみたいだから」

別の生徒がそれに答えた。

「そうそう、バイト代つぎこんで、はるかの追っかけやってたらしいよね」

「松田さん、ちょっとキモかったよな。女子からもキモがられてた」

「うん、なんか、得体の知れない先輩だったよな。キモくて有名だった」

透は、口々にしゃべりだす学生達を制すようにして聞いた。

「彼が今、どこにいるかわかるかな? 」

「確か、施設出て、町はずれの鉄工所で働いてるって聞いたような気がするけど」

「施設って? 」

「先輩、施設にいたんですよ。児童福祉施設。親のいない子供が行くとこ」

「そうそう、施設上がりだったよ」別の学生がそう言った。

作品名: 作家名:minano