小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
神崎 かつみ
神崎 かつみ
novelistID. 41954
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

パラドックス

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 

はっと我に返った彼はバツの悪そうな顔で 自分の頬が赤い事に気付きうつ向き加減で
「えっと先輩? えーっと そう母! 梢(コズエ)の息子です」
そう答えるのがやっとだった
余談ではあるが彼は決して女性不信でも 苦手というワケでもなかった。
彼の持つ「それなり」の人脈の男女対比は ほぼ同数である。
そんな彼ではあるが 独特の存在感を持つ彼女に対しさながら
着替え中の女性の部屋に踏み込んでしまった様な それでいて怒りをあてられない
なんとも気まずい雰囲気の中に彼は居た。
彼がそうなる理由など彼女は知る由もなく
不思議そうに俯いた彼の目の前にしゃがみこんで 彼を見上げていた。
そう 目の前の彼女の持つ距離感が彼にとって近すぎた。
見惚れてしまう程の外見と 見えそうな胸に対する彼女の無防備さに
彼の気まずさがピーク迎えていた。

そんなやり取りのあと 彼女は凛と背を正し 真っ赤な夕焼けを背に
「霧島茜(きりしまあかね)と申します 不束者ですがよろしくお願い致します」
そう 茜は笑顔で言った。その姿はどこか儚げで どこか物悲しく感じ 彼は精一杯胸を張って。
「は・・・はい こちらこそよろしくお願いします!」
彼はこの時に 些細な違和感を覚えたが やっとまともに言葉を話せた安堵から
その違和感は薄れていった。

自宅に案内をする最中 茜は自宅に近付くにつれ「この辺は昔と何も変わりませんね」と
嬉しそうに彼に語りかけ 子供の様にはしゃいでいた。
一方彼は 相槌を打つのがやっとで茜の言葉も話半分でしか聞けない様子だった。
何もない家路をこの日ほど 心苦しく思った事はなく 楽しそうに懐かしそうに話す茜に
「以前この辺りに住んでいたんですか?」
そう彼は茜に問うてみた。
茜は笑顔のまま沈む夕日を眺めて「昔先輩のご自宅に居候させていただいていました」
そう なんでもない事のように茜は呟いた。
彼の自宅は母の実家であり 何代も受け継がれてきた武家屋敷である
父は昔から根無し草性分で 父方の親族関係は殆ど知らされていなかった。
彼が生まれた頃には 母方の祖母は他界しており 祖父は母が亡くなる二年前に他界していた。
祖父が他界した折に父が武家屋敷を譲り受け 今現在の彼の自宅となっている。

会話が途切れ 不意に彼の耳に「ただいま」と聞こえた気がした。
その言葉は誰のものだったのか 確かめる時間もなく
茜は家の前に立ち ペコりとお辞儀を済ませ「お邪魔します」と玄関を潜った。

客間に移動した所で 茜が「スミマセンちょっとシャワーお借りしますね♪」
と忙しく浴場に席を立っていった。
彼は自室に戻り ようやく落ち着きベットに倒れ込んだ。
見知らぬ異性が自宅で入浴していると言った事実を頭から振り払う事に専念しつつ。

昔ながらの建築様式に不釣合いな 薄型テレビの鎮座する居間に戻り
客用の座布団等を用意し お茶の準備をしているところに
茜が濡れた髪と 湯だちほのかに朱く頬を染てやってきた。
「!? そ・・・その格好はなんなんですか!」
「格好? パジャマですけど何か変ですか?」
彼の問いに茜は心底不思議そうに首をかしげ「はて?」と困った。
「パジャマなのは見りゃ分かりますよ! し・・・下履いてください!」
「? し・・・しし下って 下着ぐらいちゃんと履いてますよ!」
茜は頬を更に赤く染めて 抗議をするが彼の動揺は違ったモノで
「ち・・違う! そうじゃなくてパジャマのズボンだ!」
確かに茜は 膝上程のパジャマの「上着」しか着ていなかった。
「え? これはこういうものですよ? ズボンは有りませんけど・・・・変です?」
(なんでこの人は こんなに無防備なんだよ・・・・会った時だって胸ってかブラ見えてたし・・・
いや それはそれで良いと言うか・・・・いや 身がもたん!)
彼はそんな事を考えつつ 茜の姿に緊張を隠す事も出来ず「珈琲と紅茶どちらにします?」と
声をかけるのに数分を費やし 洋菓子を並べる頃には あたりもすっかり夜の帳が見えていた。

そうして彼がようやく落ち着きを取り戻し一つ気がついた事があった
茜の髪の色である。あの目を疑うような鮮烈極まりない朱色がどこにも見当たらない。
今の茜の髪色は控えめに言っても「赤茶」である 夕日を背にして居たとは言え
あれ程までに鮮やかな朱色に見えるものなのだろうか・・・・
彼がそんな疑問に時間を費やして考え込んでいた所に
「美味しいですね!このカスタードがなんとも~・・・」
茜は子供の様にはしゃいだ口調で 幸せそうに洋菓子を平らげていった。
その姿に彼の緊張もようやく解け 紅茶のおかわりを用意し 茜の姿を見ていた。
「え・・・っと あのですね」
会話らしい会話と言うのも おかしな話ではあるが彼はようやく彼女(茜)に
会話を持ちかけようと 固まっていた重い口を開いた。
「はい?何か? あっ! ちゃんと一彰さんの分は取ってあります!」
幸せそうに洋菓子を食しつつ 申し訳程度には残しているとアピールする茜
アピールはするのだが一生懸命に洋菓子と戦っている少女が目の前に居るのである。
彼はそんな茜に対して どうしても疑問が残った。
「母の後輩・・・の方・・・なんですよね?」
「母の後輩」と言う言葉。その言葉と目の前にいる十七.八程度の少女は結びつかない
「昔この家に住んでいた」と言うのも彼の記憶にはない。彼の記憶では八歳で祖父が他界し
十歳で母が他界 その二年後には父は海外赴任となり姉と二人暮らし。
加えて父は「大学講師」である。こちらで講師を行っていたのは八年前まで
茜が父の「教え子」と言うのにも無理がある。
母が生きている頃に茜らしき人物に会った覚えも彼にはなかった。
そもそも親子ほど年の離れた彼の母を「先輩」と呼ぶのは不自然である。
彼は一つ一つ矛盾点を疑問にしていく だが茜は
「はい そうですよ?」
と ゆっくりと紅茶を飲み 何も不自然はない様に答えた。
彼は疑問の答えを懸命に思案するが 自然に学生時代の「母の親友」」と言葉通り捉えるなら
目の前に居る茜の年齢は 四十半ばという事になる。
外見は彼よりも下に見える茜が四十半ば? 説明がつかないのである。
彼は回答を いや問題すらも理解できぬまま腕を組んで考え込んでいた。
沈黙の中 茜の様子が豹変している事に彼は寒気を感じ気づいた。
「かーずーあーきーさーん?」
そう言いながら茜がいつの間にか彼の前で仁王立ちしていた。
「ひゃい!」
彼は思わず声が裏返り 捨てられる直前の子犬の様に萎縮した。
「今 私の年齢とか考えて居たでしょう?」
「うっ・・・・・」
「ちょーっと それはどうなんですかねぇ~?」
「少々私好みである所を差し引いても コレは由々しき事態です!」
「一彰さんは女性に対しての心配りと言いますか デリカシーがですね・・・」
茜のお説教に 身を縮めながら彼は「地雷」を踏んだ気分で居た。
しばらくお説教が続き 最後には「ソレで手打ちにしてあげます」と
彼の「取り分」であった洋菓子は有無を言わさず茜に没収されてしまい
姉の分であった洋菓子も 手打ちの代償となったわけである。
作品名:パラドックス 作家名:神崎 かつみ