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神崎 かつみ
神崎 かつみ
novelistID. 41954
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パラドックス

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◇パラドックス◇

パラドックス【paradox】
言葉のもともとの意味では〈パラドックス〉とは
一般に受け入れられている見解に反する命題ギリシア語で(paradoxa)という。
論理学でこの言葉を厳密な意味で用いるときは 証明されるはずのない矛盾命題が
妥当な推論によって、あるいは少なくとも一見妥当な推論によって導かれることを

――パラドックス――と呼ぶ。




残暑とゲリラ豪雨の続く長月初頭
その日は・・・・いや 正確にはその日「も」彼にとって何も変わらない【日常】で
学生の本文である 学業と私利私欲の為にあるアルバイトをする日課であるはずだった。

彼は何処にでも居る至って普通の人間である。
そう彼自身自覚はあるものの 他者からは風変わりな人物との認識があるようだ。
彼の住まう街は 山に囲まれた近年では珍しく自然豊かな土地である。
地方都市・・・・平たく言えば「田舎」の古臭い武家屋敷に住む
健全な二十歳の大学生。
それが「彼」こと 御門一彰(みかど かずあき)である。
現在は「家庭の事情」で姉の徇(あまね)と二人暮らし。

そんな何処にでも居る様な 至って平凡な「彼」の
至って非凡な 馬鹿げたパラドックス。

携帯のアラームの鳴り響く シンプルな六畳部屋。
彼はいつもよりも早い起床を済ませるが いつもより目覚めが悪かった。
まだ思考は夢現 居間からは いつもと変わらぬ朝食の香り
居間に重い足取りで凱旋を果たすと やはりいつもと変わらぬ姉の姿があった。
「おはよ 早くも遅くもないね 今日は」
リクルートスーツで 珈琲を片手に姉の徇が優雅に話しかける
彼はだらしなく寝癖のついた頭を掻きながら 姉に
「ふぁぁ・・・おはよ 今日も無駄に早いね」
彼の姉は俗に言う「朝の強い人」である。
実の弟である彼は 打って変わって寝坊の常習犯なのだが
「今日は母さんの知り合い来るから 適当にちゃんとしなさいよ」
「それと「無駄に」は余計。 無駄口叩いてないでちゃんと朝食べて行きなさい」
家を空けることの多い親に代わって 三つ上の姉は彼の親代わりである。
こうして二人で迎える朝は 彼にとって日常であり何年と繰り返してきた平凡である。

「あ・・・姉貴?なぜ今更母さんの知り合い?」
彼の言い分は尤もである。
彼等の母親は十年前に他界している。
彼の物言いにも至って優雅に姉が答えた。
「さぁ? 母さんの知り合いってか後輩? まぁ父さんの知り合い? らしいわ」
特に驚いた様子もなく 興味もなさそうに姉はそう言った。
珈琲の香りと朝のニュース番組をBGMに彼の 日常に「変化」が訪れた。
いつもと変わらぬ朝 変わらぬ他愛もない姉との会話のハズが。
「はぁ・・・なんでまたそんな人が?」
「私に聞かないでよ 父さんからいきなり「ヨロシク頼む!」って昨日連絡あってね」
「また唐突だな あのクソ親父様は」
眠気もすっかりと覚め 悪態を付く彼に追い打ちがかかった。
「しばらく家に泊まるらしいから アンタもちゃんとすんのよ?」
「マジでか・・・・」
「本気よ」

彼等の父親は とある大学の講師で 教え子(母)の卒業と同時に結婚。
現在は海外の有名大学に赴任中である。
母親の死後 男手一つで子育てに奮起するも 姉が高校に入学する頃には
遠方や海外の赴任が多くなり現在に至る。

珈琲カップの口を親指でなで上げ 姉が朝食の片付けをし始め
テレビのリモコンを片手に朝食を摂る弟に問いかけた。
「カズ?アンタ今日はバイト入ってるの?」
「いや 今日は大学だけ」
「そ じゃあちゃんとお出迎えしておいてね」
「ちょっ!きたねぇな姉貴は?」
「私は・・・・今日はちょっと遅くなるのよ」
彼は厄介事を押し付けるなとばかりに 姉の背中に向かって捲し立てた。
「コンパか?むしろ男漁りですね わかります」
彼のせめてもの反抗デモは・・・・・
「アンタの今日の運勢 天中殺で良いかな?」
姉の威圧的な背中と言葉に圧倒され鎮圧されたのである。
朝食の片付けを終えた姉が 身支度を始め
「まぁいいわ 食事は店屋物でいいから 適当に」
そう告げながら 居間をあとにした。
彼もトーストを齧る手を止め ヒラヒラと姉に手を振った。
「了解~ 適当に客間使ってもらっておくよ」
「おっけ それじゃよろしくね」
そうして「いつも」とは ほんの少し違った朝を彼は迎えた。

まだ蒸し暑い夕暮れ時 街は家路につくサラリーマンと夕飯の買い出しの主婦で賑わっていた。
そんな中彼は 朝の一件を思い出し駅前のお茶菓子店の前に居た。
母の知人の来客に備え お茶請けの一つもと店を転々と物色していた。
彼は比較的「めんどくさがり」の部類に入る人種ではあるが 時に律儀な性格だった。
友人が多いわけでも少ないワケでもなく 「それなり」の人脈を持ち
大学のサークル仲間から 適当なお茶請け候補を聞かされ 駅前を闊歩していた。
店を転々と物色しているうち 結局面倒になり定番の洋菓子を購入して家路についた。

彼の自宅は 昔ながらの木造建築が多く残る山の麓にある。
駅からは自転車で二十分程の距離があるが 長年の習慣なのか
彼にとっては然程の距離ではないようだ。
畑や田んぼ等を横目に 夕焼けの静かな道を自転車を押して歩いていると
彼は不意に場違いな「モノ」出会った。
「あの・・・すみません」
「モノ」はそう彼に呟く
彼は暫くしてようやく「モノ」を「人」と理解した。
まだ舗装もままならないアスファルトの上 周りには田畑や無骨なガードレール。
真っ赤な夕日を背に 人形の様なフォルム。
「ソレ」は とてつもなく異質
「ソレ」は 言い表せないほどの場違い(アンバランス)
黒いドレス姿の――朱い髪――
手には不釣合いな愛らしい旅行カバンとキャリーバック
独自の存在感を持ち 彼には自分とは違う「モノ」に感じ取れた。

「すみませーん」
二度目の言葉でようやく彼は その「人」と対峙する事が出来た。
「へ? あっはいはい」
彼は声が裏返りそうになるのを 必死に誤魔化し精一杯の返答をした。
返答はしたものの彼には 白昼夢の様に現実味が湧いてこなかった。
それほどまでに彼の知るこの家路の風景に「ソレ」は不釣合だったのだ。

「この辺に「ミカド」さんと言う御宅ありませんか?」
高校生ぐらいであろうか? 彼女は気恥かしそうに遠慮勝ちに彼に話し掛ける。
彼はその「話す人形」の様な彼女に目を奪われ思考回路は停止していた。
「あの・・・・ご存知ありませんか?ミカドさん」
おどおどしく彼女が続け「ミカドさん」の言葉に彼は驚き
「はっ・・・はいっ! 御門ですが 何か御用でしょうか!」
彼はそんな返答をしていた。
他者から見ても 相当な慌て様で見当違いにも 彼は自分がナゼココに居るかや
今日は大学で何があったか等と ちぐはぐに話し始めた
彼女はそんな彼の言葉を まじまじと聞き入って必死に話し続ける彼を観察していた。
「クスクス・・・・じゃあ貴方が先輩の?」
ついに彼女は笑いを堪えられなくなり 申し訳なさそうに笑いながらそう言った。
作品名:パラドックス 作家名:神崎 かつみ