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再び桜花笑う季(とき)

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7.友達



「松野さん、私お母さんに頼まれて、今高広のビデオをDVDに焼き直しているの。」
私がDVDレコーダーの購入を機に、放置していても劣化していくビデオからそれの少ないDVDに焼き直したと言う話をさくらは坪内家でしたらしい。本当に両親には荷の重いことだったのかもしれないが、小まめにビデオに残す事のできる人なのだから、たぶんそれは彼女の元にも彼の動画が残るようにとの配慮だったんだろうと思う。

私はこれまで何度か彼女に彼の写真を見せてもらってはいたが、動画では見たことがなかった。それでどれでも良いので、一本見せてくれるように頼んだ。彼女の言う「ハスキーで温かな声」とはどんな声なのか聞いてみたくなったのだ。
「ほとんどはバイオリンの発表会だから、声は入ってないのよ。」
そう言って彼女が持参したのが、彼が亡くなる前年の秋の家族旅行のものだった。テレビ画面の中では今でも、キャメルのジャケットに淡い色のボーダーニットにデニムの青年が生き生きと動きまわっていた。
「あ、あれは…!」
私は、その「キャメルのジャケットに淡い色のボーダーニットにデニム」という彼の装いとある光景が重なったとき、思わず大きな声を上げてしまっていた。
「こ、これは…本当に高広君なんだよね。」
「ええそうよ、それがどうしたの?」
そして半ば怯えながら聞く私に、さくらは不思議そうな顔で返した。

実は、さくらに初めて高広の写真を見せてもらった時、どこかで見た顔だとは思ったのだ。だが、どこで見たのかはとんと思いだせなかった。
あの、さくらが生死の境をさまよっていた時に病室から出てきた医師らしからぬ青年…あれが、坪内高広本人だというのか。
あの時、高広は彼女の病室を名残惜しそうにじっと眺めて私に深々とお辞儀をした。逼迫した場面だと言うのになぜか落ち着いた笑顔で…
さくらはその時のことを、『私ね、高広の病室まで飛んだの。一緒に逝きたいって言ったけど、高広は抱きしめたまま弾けるように消えたの。』と述懐している。彼女が彼の病室まで飛んだように、彼もまた彼女の病室まで飛んできて彼女を抱きしめて去ったのではないか。その際に、私に挨拶をした?!通常の理解の範疇を越えてはいるのだが、私にはそうとしか考えられなかった。

では、何のために彼は私に挨拶をしたのだろう。しかも笑顔で…
もしそれが彼女を私に頼むためだったとしたら、私は彼には一生勝つことなどできない、そう思った。
もし自分が逝かねばならないとしたら、とてもあんな笑顔で他の男に愛する人を渡したりはできない。きっとさくらもそんな高広の事を一生忘れることはないだろう。そう思ってしまった私は、さくらと会うことすら辛いと思うようになっていった。

そんな頃、さくらは外来から元の病棟勤務へと舞い戻った。シフトでの勤務となった彼女に私は、
「大変だろうからもうここにはあまり来ない方がいい。」
と言った。彼女は、
「話をするだけだから、疲れたりはしないわ。」
と返したが、
「広告をうってもう少し生徒を増やそうと思ってるんだ。」
と、教室を理由にやんわりと彼女を避けた。彼女もそれ以上、何も言わなかった。

しばらくして、彼女からメールがあった。
−そがっちの知り合いが習いたいって言ってるらしいので、そがっちに電話番号を教えました−
と書かれてあった。

2〜3日して、当の曽我部由美から電話がかかってきた。
「ああ、曽我部さん?生徒さんを紹介してくれるって聞いたんだけど。」
「ええ、まぁ…それで一度松野さんに会いたいんだけど、いつ空いてます?できれば他の方がいない方が良いんだけど。」
教室の紹介をその人にするのなら、他の生徒を教えている方が参考になるだろうに…おかしなことを言うなぁと思いつつも、私は手すきの時間を由美に指定した。

果たして、その指定した時間にやってきたのは由美一人だった。
「ごめんなさい。ホントはあなたと話がしたかっただけなんだけど、三輪にあなたの電話番号を聞こうと思うと、ああ言うしかなかったのよ。」
開口一番、由美はそう言って私に頭を下げた。そして由美は続けていった。
「正直に聞かせてちょうだい、あなた三輪の事どう思ってるの?」