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再び桜花笑う季(とき)

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6.変化



三輪さくらと坪内高広…二人は同じ高校の出身で、同窓会で知り合ったという。年齢は彼女の方が2つ上。もしかしたら、在学中にも見かけているのかもしれないが、お互い知らなかったという。
「50周年の記念式典で、ピアノの音に二人とも酔っっちゃったんですよ。」
何でも、彼女には絶対音感があり、微妙にずれた状態で奏でられた当日のピアノ演奏に吐き気を催して会場である体育館から出てきたところ、頭を押さえて蹲っていたのが、彼だったそうだ。彼が出てきたのも彼女と全く同じ理由。しかも、彼女を心配して友人がメールを送信してきたので分ったのだが、彼らは着信音まで同じだった。携帯購入時のプリインストールならよくある話かもしれないが、彼らの着信音は『有名な曲だけど、誰もそこだけをチョイスはしないマニアックな部分(本人談)』だから自作したものだったという。
「私たちはあの着信音でつながっているのよ。」
彼女はそう言った。

それから、彼女はその後の彼との日々や彼の人となりを実に楽しそうに話した。それはあたかもまだ彼が生きてるかのような口調だったし、彼が生きていた時よりかなり美化されているだろうことは容易に想像できた。でもそれは、彼女の彼に対する愛だと私は思った。
まだうら若い彼女がそうして思い出の中に生きているのは、周りから見ると悲しく危険なことに映るのかもしれないが、私には彼女のそうしたい気持ちが痛いほどわかった。何を見るのも何を感じるのも、彼との日々がベースになっているのだから。それは私も同じだった。

そして、彼女は週に1〜2度私のマンションを訪れるようになり、お互いのパートナーの事を語り合った。
傷の舐め合いと言えばそれまでかもしれなかったが、私たちは…少なくとも私は、彼女に傷を舐めてもらうことで少しずつ妻や子の許に行くんだと息巻いていた気持ちが薄れていったのは事実だ。