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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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代償    (旧人間ドック)

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夫婦交換

高校時代祐二と相沢は進学クラスのなかで首席争いをしていた。祐二は国立の経済学部に合格した。相沢は医学部の補欠合格であったが、私立であったために寄付金で入学することが出来た。裕福な相沢家は2000万円の金を納めた。相沢は努力もしたのだろう、6年経ちインターンを終えると国家試験に合格した。当時の同級生は相沢が裏口入学だと騒いだ。
相沢は栃木には戻らず東京で勤務医をしていた。結婚相手の柏瀬愛が栃木であったために地元に戻り開業したのである。
その頃はほとぼりも冷め相沢のことを悪く言う者はいなかった。小児科、内科であったが、小児科は優しく丁寧だと評判が良かった。
高校の同窓会があり、祐二と相沢は意気投合した。酒も入っていたせいもあったのだろう、お互いの女房の自慢話になった。
祐二と相沢は仲は良いが、何かにつけてライバル意識が働いてしまった。
「それなら一晩だけ夫婦交換をしよう」
と相沢が言い出した。相沢は祐二の連れ合いを知らないし、祐二も同じであった。
それにお互いの女房が承知しないだろうと、祐二は思っていた。
「それは面白いな」
祐二は強気で言った。
「10月の連休にドライブで始めよう」
「いいとも」
 
相沢はベンツ、祐二はポルシェである。待ち合わせの高速入り口でお互いの女房を交換した。
祐二は
「楽しくやったらいい」
と妻の恵子に言った。
相沢はどんな言葉で連れ合いを自分の車に送りだしたのかと考えてみた。
「宜しく。愛です」
「本田祐二です」
「どこに連れて行って下さるの」
「奥日光の紅葉はいかがです」
「どこでも楽しければ・・一日恋人ですもの」
祐二は55歳になっていたが、同じ年の相沢の連れ合いにしては若く感じた。祐二よりは10歳は若い感じである。
細面の小顔であった。つけまつげのせいかもしれないが目は大きく、タレントのような容姿であった。それに職業は医師である。
仕事の接待で女性との付き合いは馴れていたが、友人の妻と言う事もあり。話し言葉がなかなか出ない。
「無口な方です事」
「いや、運転に集中してしまって・・」
「この車なら200キロは出るかしら」
「違反覚悟でしたら」
「それってスリルあるわよね」
「ありますが…」
「出してみない」
「150くらいでしたら・・・」
「冗談ですわ」
彼女は楽しそうに笑っていた。
確かに相沢が自慢するはずだと祐二は思った。
高速を降りると、祐二はルーフを開け、オープンカーにした。
「ハリウッド映画みたいだわ。解放される」
祐二は速度を落とし60キロくらいで走行した。
奥日光の紅葉は見頃であった。シーズンさなかであり、渋滞がひどい。
「鬼怒川に行きたい」
愛はそう言った。
「どうして」
「温泉に入りたいから・・・」
「そうですか・・・」
「一日は24時間でしょう」
「解りました」
祐二はこれからどうなるのかと思い始めた。
相沢は今頃自分の妻に何と言っているのか気になった。