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吉葉ひろし
吉葉ひろし
novelistID. 32011
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代償    (旧人間ドック)

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検診

祐二は毎年1泊2日の人間ドックの検診を受けている。小さいながらも工場を経営しているからである。子供は3人いるが、男1人と女2人である。長女は教師になり、教師と結婚した。次女は看護師でまだ独身でいる。いち番年下の長男は学生結婚をし婿養子に入ってしまった。
IT関連のベンチャー企業の社長令嬢である。
祐二の跡取りがまだ見つからないのである。残された可能性は次女であるが、あてにはならない。
検診は次女の勤務する日赤である。その日の検診を終えて、病室に戻ると、上半身裸の男が立っていた。
「よろしく」
男は背中に龍の刺青をしていた。
祐二は
「こちらこそ」
と堂々と言ったつもりであったが、声が震えていたことが自分でも解った。
二人1部屋である事は何回もここで検診を受けているので知っていた。
それに見ず知らずの方と話をするのも楽しみであった。
祐二は仕事のトラブルでいろいろの人を知ってはいたが、どう見てもやくざにしか見えない者と同室で一夜をともに過ごすのかと思うと、気持ちが滅入った。
「煙草吸わせてもらいます」
禁煙であることは言うまでもない。だが祐二は頷いた。
「吸いませんか」
さすがにそれは断った。祐二自身愛煙家である。
美味そうに煙草をふかしている男を観ていると癪に障った。
何故禁煙ですよと言えなかったのかと腹立たしさは自分への反省だったようでもある。
「社長さんですって」
「いやぁ」
「何かトラブルがあったら相談に乗りますよ」
男は名刺を出した。
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「今日は名刺の持ち合わせがなくて失礼します」
その時部屋に若い男が入って来た。
「うちの若いもんです」
男と若い男は何やらこそこそ話をすると、部屋を出て行った。
祐二は1人でテレビを観たが、男の事が気になっていた。1時間しても男は戻らなかった。
消灯時間になり、祐二はベットに入った。

翌朝になると男に挨拶された。一晩中寝付かれなかったのに
男の戻ったことを知らなかった。その日は採血があった。若い看護師は男の刺青を観て、採決の針を2度も入れ直した。
「すみません」
泣き出しそうな声で謝った。
「気にしないでいいよ刺青が怖いんだろう。ごめんな」
看護師は作り笑顔で
「ありがとうございます」
と言った。
男の後は祐二であった。まだ緊張がとれないのか、針先で血管を探していた。
採血が終わり、問診に入った。
祐二は見覚えのある女医さんの様な気がした。
確かにそうだと思う。
祐二とは同じ年の相沢医師の奥さんである。内科の開業医であったが、2年ほど前から閉院していた。
名札を観ると柏瀬と明記されていた。
記憶が確かなら離婚されたのだろう。離婚の原因が、そんなことはないだろう。
「検診はこれで終わりました。結果は2週間あとになります」
声も間違いなく相沢愛である。
彼女は淡々と仕事をしている様子であった。
祐二はあの夜の相沢愛とのことを思い出していた。