富裕層会議
第五回会議 連中を監視せよ
「うーん、あらゆるやり方で、矛先を逸らそうとしたが、ここまで来ると限界なような」
「こうなったら、危ない芽は徹底して摘むようにしましょう。今はネットの時代、どんな貧民でもネットを使っている。携帯も使っている。そのネットワークに徹底した監視網を引きましょう。そして、怪しい連中を手当たり次第にしょっ引くのよ。特に、市民運動と称した危ない運動を仕掛ける連中を棒引きのようにひっかき出すの。そいつらを見つけたら、どんな理由でもいいわ。逮捕して刑務所に放り込むの。不正を働いたとか、性犯罪を犯したとか。私たちの検察と警察を使って、徹底してね」
「そんな強引なことをしたら、私たちが訴えられることに、仮にも民主主義だからね」
「大丈夫よ。私たちが雇う弁護士は高い報酬を貰ってとても優秀、それに裁判所だって抱き込んでいるのも分かっているでしょう。私たちに不利な判決を下す判事はみんな左遷を受けるシステムになっている。政治家や役人たちにそんなシステムの構築をさせてきたんだから」
「ネットの時代だものね。そうだ、幼児ポルノ画像を送って、それを所持していたとか。著作権のある作品を勝手にネットに流したとかなら、やり安いんじゃない。そのための法案だったのでしょう。いざ、捕まえたら、メディアを使って煽りましょう。特に市民活動家が、そんな犯罪者だったと報じられたら、他の活動家を萎縮させる効果も持つし」
「もっと大事なことは間違っても、奴らに政治の世界で活躍するなんてことをさせないことだ。選挙に出馬できないように、立候補の供託金を釣り上げよう。選挙資金不足で議員に立候補できないようにな」
「市民活動家といえば、反原発活動家なんて許せないわ。私たちの事業を、ことあるごとに危険だとかいって妨害するの。私たちの原発のおかげで電気のある暮らしができて、働く場も貰っているというのに」
「働いて放射能を受けて、早死にするとか言っているけど」
「うるさいっていうのよ、使い捨てのくせに。今まで私たちが払ってきた税金でただ乗りの福祉を受けてきたのは誰だって言うのよ。原発のおかげで、あいつらでも買える安い電気を使えるんだから、感謝してよね」
「あいつらはことあるごとに不満をぶちまかす。派遣で自由な労働ができるというのに、使い捨ての貧困ビジネスだとか。志願制の軍隊は名ばかりで、実をいうと貧民徴兵制だろうとか」
「最近、やつらも賢くなってきたもんな。ネットとか使って変な知識を蓄えやがって」
「蓄えといえば、私たちの蓄えはどう使おうかしら、派遣や海外に工場を移転したりして労働コストを安く抑えて、蓄えをずっと増やしてきたけど、それは金融業者に預けてきたわ。さらに増やすためにしたのだけど、どこまで増やせたものかしら」
「おい、大変なニュースだぞ。その金融業者が破綻したそうだ」
「ああ、大変なことに。原発が大事故を起こしたって。放射能が大量に漏れて、周囲の住民が避難をしているわ」
富裕層たちは事態の分析を始め、数日後、緊急会議を開いた。もう彼らにとって、最終の会議になりかねない事態に。