光の中
そこにいた人を私は知らなかった。その人の記憶だけが今焼かれていった。
ただ、その人は“両目”も欠けていた。
…こっちを向いたね?○○○さん。
私の目玉を欲しがるように、その体のパーツが欠けた顔をひしゃげ、口が大きく開かれた。
私の口からは喘ぐ声さえ出ない。対して迫り来る獣の口は時速四十キロで歯の先端を私の目玉に突き刺しにかかった。
歯のエナメル質が目の水晶体に髪一本分めり込んだ途端に、その人は消え去り私の目玉からボタボタと血が落下した。
私が前を向いているのは分かる。でも見えているのは電灯の淡い赤色か、目の中に溜まりだした血なのかが判然としない。
すでに電灯の明かりが別の明かりに埋もれていた。大型トラックのヘッドライトに、自分の身体が白く照らされていることに、私は血の赤で気付かない。身体の白さが徐々に濃くなるのにも気付かない。