D.o.A. ep.34~43
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小高い丘をのぼっていく。
広い視界に、青い海が横たわり、陽を受けてきらきらと波が光る。
―――リンゴの樹の丘。
美しくたくましい枝ぶりの大樹のかげに、亡き人を悼む碑がよりそう。
先頭を行っていたリノンが足を止めた。
意図は知らぬが、ここが彼女が迷いなく目指した場所のようだった。
ティルはまだ食べられるほどに熟していない、青い実に触れた。
そして、ここへ来た意味を訊ねようと口を開きかけたが、ライルに先を越される。
「…ここに、なにかあんの?」
ライルは幹をノックするようにたたいて眉を寄せた。
あれだけ淀みない足取りで辿り着いたわけだから、何らかの説明がなされるものと期待していたが。
「…そん、な…」
彼女は明らかに動揺し、困惑していた。
「そんな、って…なに。なんでさ」
「だって、こんな。こんなはずじゃ…どうして」
リノンは言葉を吐くごとに顔を蒼白にしていく。
一体なにがどうなっていたから、こんなはずじゃ、というのか。
リノンはついに、林檎の樹のまわりをうろうろしはじめた。何かを探すように。
「…どうした。ここに何があるはずだって言うんだ」
不安げにおろおろ歩き回るリノンに痺れを切らし、ティルが強めに質す。
「だって―――ここには、大十術士が…」
直後、幹が振動する。
幹がめきめき鳴り、葉ががさがさと騒ぎ、木の皮がぱらぱらと落ちる。
ぎょっとして、彼らは幹から距離をとった。
「え、なに、なに」
「…!」
まるで絵合わせパズルのように、幹が時計回りと反時計回りに回転する。
大樹はゆがみ、ぐるぐるといびつな姿へ変わっている。
やがて、大樹にはおとな一人がやっと入れるような楕円の穴が口を開けた。
「……」
「…入れそう、だけど」
穴は真っ暗で底が見えず、いったん入れば戻ってこられそうにない。
「……」
尻込みしてしまう底知れなさに、言いだしっぺのリノンの足は思い切れなかった。
だが、そんな彼女の横を、黒髪がすり抜けた。
穴の上に手をかけ、背を縮めている。
「い、行っちゃうの?」
「リノンが目指したのがここだろ。信じる」
「で、でも」
「立ち往生してたら追っ手が来る。選択肢なんて、無いみたいなもんだ」
言って、少年の姿は、さっと闇へ落ちていく。
「…誰に入れ知恵されたのかはわかった」
――――あとは、本物のソレが待っていることを、祈るしかない。
呟き、ティルがそのあとを追うように入ってしまった。
そして、彼女一人が、樹の前にのこされる。
「………」
覗きこんでも、彼らの姿はない。底にたどり着いた気配さえも、ない。
呼びかけても、返事はかえってこなかった。
「…――、これ以上の事態の悪化なんてそうそうない、気合入れて、行け、私!」
まるで潜水でもするかのように息をめいっぱい吸いこみ、リノンは目をぎゅっと瞑って飛び込んだ。
作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har