D.o.A. ep.34~43
家々は塗装がはがれ、ところどころに血が飛び散っていた。
直す者がだれひとりいないので、いたんだ箇所からさらにいたみがすすむ。
村の中を歩きながら、思い出がよみがえってくる。
はしっこにある田舎で、お世辞にも活気あふれる村とはいえなかったが、それでも、過ごした時が今でもいとおしい。
いとおしいがゆえに、この光景が悲しく、そしてこうなった原因をゆるせなかった。
魔物。クォード帝国。レンネルバルト。
のんびりとした時間の中で、ひたむきな信仰をささげ、穏やかに一日を終える、争いとは無縁の人々だった。
なぜ、あんな素朴でやさしい人たちが、目をおおいたくなるほどの無残な死に方をしなければならなかったのだろう。
「………」
となりをあるくティルを意識せざるをえない。
彼は、レンネルバルトと兄弟らしい。
語られる事実を、泣きそうな声で否定して、殺意がむけられても抵抗すらしなかった。
兄であるレンネルバルトを、とても慕っているのだとおもう。
それをさとったとき、ライルの腹のうちに、おそろしいまでに黒くにごった感情が首もたげてきた。
―――お前も同罪だ、と。
レンネルバルトを肯定するなら、憎悪の対象は彼にさえおよんでしまう。
何度も助けてもらって、感謝していた。
愛想は悪いが、仲間と呼べるような関係になりつつあるとも信じていた。
つみあがっていたティルへの信頼が、レンネルバルトの弟であるというこの一事だけで、すべて壊れそうになる。
何か口に出してたしかめ、もしレンネルバルトをかばうような答えが返ってきたら。
それが現実になることがおそろしく、ライルは彼に対し、口をきくことができないでいる。
作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har