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D.o.A. ep.34~43

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Ep.40 侵入者




はじめに気付くべきことであった。
何をやろうとするにあたっても、もはや10日という時間が経過しているのだと。
ライルたちは知るよしもなかったが、ロノアが全軍降伏してから数えるなら、正確には7日、一週間である。
クォード帝国が、失踪したライルを血眼で捜すならば。

「まず、トータスからは出られないようにするわよね…」
港は、確実におさえられているだろう。
日が浅ければ隙間をくぐれたかもしれないが、一週間も経ってしまえば、警戒網は格段に厳重になっているはずだ。
そして、脱出手段がない以上、何をたくらもうと絵に描いた餅である。
ああレニシアに行きたいなあ、と夢を見ながら、ずっとここから出られないのだろうか。

「もう!エメラルダさま、なんであなたこんな不思議空間に住んでるんです!
素直に通常空間にいてくれれば、こんな時間を無駄にすることなかったのに!どうしてくれるんですか!」
もはや崇め奉っていた頃の尊敬などかけらもなく、リノンは涙目で嘆く。
「仕方がないだろう。私は退屈しているのだ」
だがエメラルダは、そんなものはどこ吹く風である。
「命に終わりがないということは、自然の営みが、ただひたすら煩わしく、鈍くさいものに感ぜられてたまらないのだよ。
退屈は苦痛だ。逃れたいと願っても死ねない。人類の夢も、叶ってみればただの生き地獄になった」
光の粒が舞う、窓の外を眺めて、
「だからせめて、自分のテリトリーの時間の流れを歪めて、早送りされる人の世の営みを観察するのだ」
しかし、やはりつまらなそうに言う。

「早送りできるって言うなら、巻き戻しは?できないのか?」
ハッとひらめいたように高く叫ぶライルを、賢者はあきれた目で見やった。
「…何者であろうと、時の方向性を曲げるコトはできないよ。時は進むだけのもの、これが真理だ」
にべもなく切り捨て、腕をくむ。

「まあ、しかしだ…お前たちを逃がしてやることくらいならば、やってやれなくもない」

「!本当か、そんなスゴいことができるなら、もっと早く言ってくれよ」
「その気になれば、お前たちをすぐに、レニシアに移動させることも可能だろう」
「はやくその気になってよ神さま大十術師様エメラルダさまん!」
あからさまな猫なで声でおだてられ、まんざらでもなさそうにメガネのブリッジへしきりに指をかけている。
「ただし、帰りは自力で戻ってきてもらわねばならんが」
「十分よ!」
再び場に明るさが戻る。今度はライルとリノン、小躍りしだしたいほどに前途に光が見えた気分だった。
そしてやはりティルだけが、そんな彼らを、おめでたい奴らだといわんばかりの半眼で眺めていた。

「…エメラルダさま」
そんな中、不意に、ドアの外から呼び声がかかった。
「どうした」
扉が開くと、肩にアルを乗せたレーヤが、変わらずちんまりとした姿で、どこか落ち着きなくそこにいた。
ぎゅっと引き結ばれた唇と、少しだけふるえる眼が、おびえているようにも見える。
「知らないやつら…来た」
「知らないやつらだと?」
エメラルダは、レーヤの報せを聞いて閉目する。賢者の力は、視界に全く入らないほどの遠くをも見渡すようだ。

「…どうやら、招かれざる客人のお出ましらしい」

―――追っ手だ。
三人は、瞬時にそう理解した。

ライルたちはリンゴの樹から入ったが、あんな出入り口はそうそうわかるものではない。
幹の部分が変形するなど、考えもつかないはずだ。
しかしながら、エメラルダは招かれざる客人であるとつぶやいた。

「どなたか知らんが、私のテリトリーでは無力を知るだけだ」
招かれていないという事はつまり、かりに出入り口を見つけたとしても、落下死するのがおちだ、という。
さらにレーヤの案内がなければ、なにひとつ目印のないあの闇の空間を抜けられない。
賢者の住まいへいたる道程は、賢者の迎え入れる意思がなければ、なすすべがないように作られているのである。

「絶対に、ここにはたどり着けないのか」
「あの闇は、私の魔力で編んだ結界だ。彷徨い続け、ひたすら体力が削られていくことになる。死ぬまでな」
エメラルダは断言し、白い頭髪をひとふさつまんで、目を眇める。
扉を開いたことによって、外から侵入してきた光の粒がエメラルダにまとわりついて、体がぼんやりと光っている。
気のせいか、光の粒子は、なにかにおびえて賢者にすがっているようだった。
「本当に…平気なんだろうな」
「そんなに不安なら、さっさとレニシアへ飛ばしてさしあげよう。外に出たまえ、ここは狭い」
粒子を振り払うように歩き出す。どこか釈然としない胸のつかえを感じながら、ライルらもそれに続く。







作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har