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「今乗り込んでいっても、ロノアからクォード勢を追い払うのは、万に一つも不可能だ」
「なんでさ」
不満げにライルは口をとがらせる。
「お前は阿呆なのか。現れるかどうかもわからないアライヴに期待して、事が万事なると本気で思うのかい」
あきれたように重いため息を吐いて、浅黒い頬をかく。

「なんにもわかっちゃいない。こうしている間にも着々とロノアの支配を強めている。仮にお前がアライヴになって乗り込んでいったとしても、どうにもならん。
いいかね、本気でやるなら、まず支配を打破しなければならないのだ。国民総力でな」

「そのパワーは一体どうやって…？」
リノンは眉根を寄せて考え込む。
「旗印が必要ということか」
「旗印って何よ」
ティルの応えに、ライルとリノンは難しげに口元をゆがめた。
「民をまとめる根拠、分散させることなく結束させる役目をになう者だ。それには王族が最もいいけれど、王は殺害された。
王女は幽閉されているし、仮に担ぎ上げられたとしても民をまとめうるには精神が薄弱だな」
「じゃあ、一体誰が……」
他には武成王であるソードが、国民的人気を誇るうってつけであろうが、やはり幽閉されている。
しかも、敵にもその事はよく承知の上であろうから、厳重な警戒のもとで囚われているに違いない。

「いや……王には、もう一子がいたはずだ」
ティルのつぶやきに、二人はハッとなる。
確かに、アイリシャーネ姫には、今年二十歳になった兄がいた。名を、ヤッファーニという。
機械(マシン)にお熱であらせられる、まるで恋でもしておられるようだ、と揶揄するように評されていた。
「たしか…レニシアって国に、留学してんじゃなかったかな」
新大陸と呼ばれる、比較的新しく発見された地に存在する国家である。
ライルはどんな国か詳しくはよく知らなかった。
まさに万里の波濤を越えた先にある、遠い遠い外国だ。
海にも魔物がいるため、自由が利かない船の旅は、まさに命がけである。
国王も、次期国王となるであろうヤッファーニの留学の許可は、苦渋の決断だったと聞く。
「そのレニシアって国にいる王子様に帰ってきてもらう、ってことね！」
明確な目標が定まり、リノンの声色に少しだけ明るさが戻ったが、反対にティルは苦虫を噛み潰したような顔だった。
常に仏頂面なので、そこまで気にはならなかったが、となりのライルもどことなく口元がひきつっている。
「なによあんたたち。今までなにすればいいのかお先真っ暗だったのよ。目標が見えた！喜ぶべきじゃないの」
「…いや、よく考えてみてくれよ」
どこか遠い目で、ライルは口を開いた。

「―――俺たちには、レニシアへ向かうどころか、四方海のトータスから出る手段がない、かもしれない」

ぴきり、と彼女が明るい表情のまま凍りついた。