D.o.A. ep.34~43
「エメラルダさま、あんたはさっき、ロノアが襲われた原因は俺にある、戦いで失われた命は、俺の責任だと。こう言った。
ふざけるな、何でそんなことが俺のせいなんだ、理不尽だって、正直反発した。
でも、そんなの全然関係ないところで、俺は確かに強く、ロノアを何とかしなくちゃいけないと思ってる」
故郷を想う時、浮かぶものはたくさんある。
例えば、小さな村の風景だ。
例えば、たった一つの教会の、やさしい、祈りの静寂だ。
例えば、緑の丘に根づくリンゴの大樹、そこから見下ろせる真っ青な海原だ。
例えば、街道沿いで小さく揺れる草花や、遠くに見える蒼い山々だ。
例えば、城下の中心にある、大きな仕掛け時計だ。
例えば、通りのにぎわいや、店先にならぶ、野菜や果物、肉や魚の瑞々しさだ。
例えば、小高い山に堂々と広がる、ロノアの城だ。
そして、例えば―――――数え切れぬ、見知った人や見知らぬ人の、笑顔だった。
「俺は、ロノアが好きだ。…だからそれを奪ったクォード帝国がゆるせない。奴らの手から取り返す。そのためなら命を懸けたい」
それらを脳裏によぎらせながら、ゆるぎない強さで言い切った。
「ただ、俺が命懸けたってどうにもならないことも知ってる。あんな、めちゃくちゃな怪物には、どう逆立ちしても勝てない。
それでも諦めたくないんだ。力がほしい。アライヴは…アライヴだったら、奴らと戦えるのか」
エメラルダは、少し面食らったように、ぱちぱちと瞬きをしたあと、メガネのブリッジに指の関節を当てた。
「トライディザスターはともかく、その気になれば…この地上で負ける事は、まず無いといってよかろう」
「だったら俺は、アライヴの力を使って奴らと戦う」
「そんな…!」
ライルがきっぱり決めると、リノンが焦ったように非難めいた声をあげた。
「ダメよ、そんなの…、そんなのに頼るなんて、そんな…」
常に歯切れの良い彼女とはうってかわったように、困りきって、どこか泣きそうに見えた。
ライルは眉を寄せ、不思議そうに首をかしげる。
「なんで、ダメなんだ?」
「…だって」
感情に任せて非難したらしく、理由をつけあぐねている。それでも、引く気はないようだ。
押し問答のような沈黙が場を満たし、不意に彼は、こんなことがいつかあった、と思った。
彼が決めたことを、リノンは反対する。
それは、愛されているからこその心配からなのだとわかっていたが、反面少し疎ましさもないわけではなかった。
なぜ、自分の意志で決めた道を、彼女は笑顔で肯定し、応援してくれないのだろう。
それは悔しくもあったし、わずかながらの寂しさもあった。
「選んだ事は、絶対に、何があっても後悔なんか、しない。認めてほしい。…それに」
青いランプの光に照らされた表情は、なお悲しげにこちらを見据えている。
「アライヴに死ぬまで俺が巻き込まれるなら、俺のやる事にアライヴを巻き込んでも当然いいはずだ。
――――運命共同体って、そういうことだろう」
「…思っていたより悪くない思考をするのだね。その通りだ。お前は正しい。この上なく正しいよ、ライル」
「ちょっと…そんな無責任に!」
その言葉は、リノンではなく、エメラルダを得心させていたようだった。
抗議の叫びを無視し、賢者は太鼓判を押して、窓縁から立ち上がる。
「使えるものはなんでも使い、生き延びて、そして、誰よりも強く生まれ変わってゆくがいい」
妙な言い回しのあと、はじめて笑みを浮かべる。
ライルの背筋が冷たさを帯びたのは、光の加減で薄気味悪く感じたからだろうか。
作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har