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D.o.A. ep.34~43

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Ep.34 神樹




「…じゃあ、あいつの言ったことは、ほんとうなのか」

ざっと説明し終えたのち、ライルが暗い面持ちでたずね、リノンはゆるくうなずく。
戦場から逃げた彼女たちに、ロノア降伏の真偽をたしかめるすべはない。
けれどもあの圧倒的な怪物に、ロノアの兵を立ち向かわせ続けたところで、蟷螂の斧ほども効果はあるまい。
どう足掻こうと、ロノアの敗北は必至だっただろう。
ならば、少しでも被害を少なくとどめるために、降伏を決断するのは当然のなりゆきであるといえる。
武成王が降伏を決断した、ととれることをレンネルバルトは告げた。
よその国はどうか知らぬが、このロノアで、開戦と降伏を決定できる人物は2人いる。
まず国王、そしてつぎに武成王だ。
武成王が軍部の意見を決定し、武成王が王、ついでに大臣たちを説得し、それが国としての方針になる。
その過程を経てくだされるはずの降伏宣言が、「武成王」ひとりによってくだされたというのであれば―――

「陛下は決定できる状態じゃなかった…っていうことに、なるのかしら」
「それ…もしかして、俺たちが必死で押し返そうとしてるとき、王都が襲われたのか」
「…わからない。でも、陛下が病まれているなんて話は聞いたことないし…」

これは国と国、人間同士がおこなう戦いではなかった。
人間のルールや精神など、まったく通用しない魔物軍団が相手では、降伏などしようがない。
降伏は、それ以上の被害をださないためにおこなうべきものなのに、魔物に屈するなら、民が蹂躙されつくした果てに、国家そのものがくずれさる。
それを、ソードがわからないわけがないのだ。
レンネルバルトの言を信用するなら、オークをロノアにさしむけた黒幕は「クォード帝国」であるらしい。
「クォード帝国」を代表する、少なくとも言葉の通じる者が、使者としてソードの前に現れたということなのだろうか。
いや、そもそもソードは、戦場にいたはずではなかったか。

「ここで考えていても仕方がないんじゃないのか」
今まで沈黙に徹していたティルが、悩みの深みにはまりそうな二人を制するようにつぶやく。
「これからどうする気だったんだ、あんた。…東の果てまで来た。これ以上は逃げ場がない」
薄汚れているステンドグラスを見上げて、彼は嘆息する。

「逃げ場、か…」
「そういやあいつ、言ってた。俺を血眼で捜すだろうとか、逃がしてやるとか」
「………」

リノンがソードにされた頼みごとを、彼は知らない。
「まずくなったら戦場から逃げる兵」など、軍隊としていましめるべき厳罰の対象である。
だが、彼はリノンに、それを頼んでまでさせようとした。
そして、逃げたことがわかれば、血眼になってライルをさがすらしい。
「クォード帝国」の目的の中に、ライルがふくまれていたと考えられる。
降伏したとあれば、戦場にいないことはおのずと判明し、もうすでに捜索を開始しているかもしれなかった。

「そうね。ここで悩んでいても、一銭の価値にもならないわ。
私たちには時間もない。こんな王都から2時間ちょいの場所なんか、かんたんに見つけられるでしょうね。はやく行動しないと」
リノンは椅子から勢いよく立ち上がり、両頬をぱちんとたたく。
そして、椅子でひざをまるめたまま、動かないライルをふりかえる。
「なにしてるの。行くわよ」

「……うん」






作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har