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D.o.A. ep.34~43

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「ご機嫌いかが?武成王ソード」

不意に顔を上げると、燃えるような赤毛の女が、鉄格子を隔てて佇んでいる。
一人だった。いつも外でソードを見張るオークが、今はなぜか見当たらない。

「麗しすぎて反吐が出そうだよ」
「洗いざらい喋ってくれたら、こんな扱いを受けなくてもいいのよ」
「何回と言わせれば気が済む。俺は何も知らん」
「そんな言葉が通用すると思って?…アライヴを、あなたが野放しにしておくはずがないわ。必ず、信頼できる筋にその身を寄せさせているはずよ。
それはどこだと訊いているの。いい加減に聞き分けのない態度をやめて頂戴」
「………」

ソードは目を閉じて顔をそらす。キルフィリアの口調に苛立ちが含まれ始めている。
そろそろヒステリーを起こし、鉄格子をこえて彼をサンドバッグにするだろう。
現に、眉根にしわを寄せて、鉄格子をぎりぎりと握りしめている。
「…あんた、そんなふうに構えていられる立場だと思っているの。どれだけの人間が人質になっているのか、よもや忘れたわけでもないでしょう」
「無抵抗の国民の生命は保障する、という条件で軍を黙らせた。それを裏切れば、彼らはまた必死で抵抗するぞ。せっかく占領したのに、今度は泥沼になる。
お前の一存でどうこうできるのは俺だけだ。それ以上は越権で、“イリュード様”からお前が罰を受ける」
「………ッ!!」

青い眼が憤怒に燃え上がる。逆鱗に触れたようだ。
彼女は、あの白い獣を「イリュード様」と呼び、陶酔した眼差しで見つめていた。
ただでさえ反抗的で気に入らない男に、その名を口にされ、さらに反論に使われたのが我慢ならないらしい。
いきりたったキルフィリアは、扉を蹴り開けて眼前まで来ると、長い爪を彼の両頬に食い込ませ、鼻先が触れる距離で口角を上げた。

「アタシ、気の長いほうじゃないの。これ以上怒らせたら、何をするかわからないよ」
「知っている。…好きにするがいい」

彼女の欠点は、気が済むまでソードを殴りつけたら、沈黙を守る彼に業を煮やして放り投げてしまうことだった。
そんなことを、もう3日は繰り返している。
このような気の短い女が、拷問役として適当とは思えないが、ソードにとっては不幸中の幸いとも言えた。
腹に入る蹴りの痛みに苦悶をかみ殺しながら、ソードは、この時間の終わりをひたすら待つ。


「甘ェんだよリア。大甘だ。そんなデカブツいくら痛めつけても無駄だぜ」

―――どこかで聞いた声。
ほとばしるばかりの悪意とあざけりに満ちたくぐもった声音が、死角から、金属的な足音とともに近づいてくる。

「そいつはフェルタニアンだ。戦うために生まれたバケモンだ。痛みにはとことん強い。テメェのやり方じゃ埒が明かん」
鬼兜だった。
「…ロディ」
ロディと呼ばれた白い甲冑は、姿を現すと、牢屋の向こうから仰々しく礼をしてみせた。
「よぉ、武成王、なかなかいいザマだな。こんな女に好きにされっ放しで、プライドねぇの、あんた」
「………」
「こりゃダメだ」
あきれたように両手を広げて、肩をゆすらせ笑う。
「ロディ…武成王は、アタシが引き受けたのよ。あんたの出る幕はないわ」
「テメェのやり口があまりにもヌルいから、手伝ってやろうとしてるんじゃあねェか」
「ヌルい…ですって?」
「そいつへの拷問は無意味だ。骨をいくら砕いても、手足切り落としても、目ン玉抉っても、タマ潰しても、なにひとつ喋っちゃくれねえだろうぜ。
やるなら、もっと効果覿面なやり方があるだろが」

首を軽くそらせると、醜悪な姿の巨体が二つ、現れた。
仕草にさえ従うほどに、オークは完全に、この鬼兜に屈服している。
だが、そんなことが毛ほども気にかからぬほど、その二体が連れてきた人物は、ソードを大きく動揺させた。
「こういう意固地な野郎の口を開かせるには、目の前でオンナ痛めつけるのが一番…なあ、そうだろ武成王」

「……セ、レ…ス…」

心の臓が早鐘を打つ。
口内が渇いて、声がふるえた。
何度瞬きを繰り返しても、二体の醜悪な怪物の間にいる女の姿は変わらない。

最愛の妻が、セレス=ウェリアンスが、悲しげに顔を伏せている。


作品名:D.o.A. ep.34~43 作家名:har