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Ep.37 Interlude‐１‐

ぴちょん、としずくの残響が耳にまとわりつく。
時折水気が天井からしたたり落ちているらしい。
かびくさい水が、ほほにあたって滑り流れていった。
その冷たさが、ぼやけた意識を徐々に覚醒させた。

「………」

目の前に、鉄格子がある。モンテクトルの地下牢だ。
頼りないランプで照らされた暗所は、陽の光がまったく届かないため、今が昼か夜かさえわからない。
少し首を動かすと、頭上で重たげな金属音が響く。
見上げれば、両腕が、頭上で拘束されていた。

忘れかけていた感覚を取り戻す。
何度も殴りつけられて腫れあがった目に、冷たくかびくさい水が流れ込んで、男は―――ソードは、眇める。
あの赤毛の女、確かキルフィリアといったか。
トータスの大地を、ロノアの兵を蹂躙したばけものに、彼女がトライディザスターと呼ぶそれに、ロノアは屈するしかなかった。
しかし、屈するしか道はなかったとしても、絶望したわけではない。
希望の芽が摘み取られていないらしいことを、彼は、自身に降りかかる拷問によって知った。
クォード帝国と名のる一派の中で、もっともソードに対し嗜虐的だったのは、キルフィリアだった。
彼女の暴力は、女のそれとは思えないほど激しく鋭いものだったが、ソードの口を割らせるには到らなかった。
連中には拷問のプロはいないのだろうか、と訝ったが、はたと、あの心術士の存在に思い当たり、背筋が凍る。
いくらこちらが口を開くまいと決意しても、心の中をすくい出すように暴かれてしまえば、対処の仕様がない。
が、幸いにもあの心術士は、いまだソードの目の前に姿を現してはいなかった。

ロノアが降伏を宣言して、十日が経っている。
「クォード帝国」という得体の知れない集団の支配下に入らざるを得なくなったロノアは、まず国旗を燃やされた。
今、代わりにはためくのは、例の、黒紫赤の布地に、炎と羽と蛇を金色でえがいたものである。
国旗を燃やされ、見たこともない旗を掲げられるという光景を目の当たりにし、暴動を起こした人々もいたが、敵はオークである。
抵抗らしい抵抗などかなうはずもなく、見せしめといわんばかりに惨たらしく殺され、吊るされた。
おそらくこれからも―――否、これ以上の屈辱の日々が待っている。
耐え忍んでも、いつ報われるとも知れぬ、果てのない陵辱の日々が。
はたして人々は耐えることができるのだろうか。希望を胸に抱きつづけることが。