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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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5 昇り龍 〜ある花火職人のものがたり〜(増量版)


「おめぇら承知のはずだが、どっちが店を継ぐかがこれで決まる。今夜は、贔屓の旦那衆にも集まってもらった。負けたとしても・・・まっ、どっちかが負ける訳なんだが、恨みっこはなし、だな。良太、おめぇからだ」
「へい。あっしは大輪の菊を咲かせやす」
 良太は、荒川の川岸にしつらえた打揚筒までゆっくりと歩みより、尺玉を仕込んで導火線に火をつけるとその場を離れ、顔を上げた。
 大きな音と共に打ち上がった玉が割れると、多数の星が散らばり、その頃にはまだ珍しい色どり豊かな、見事な菊を花開かせた。
 土手上に集まっている50人ほどの観衆からは、一斉に歓声と拍手が沸いた。
 鍵屋清兵衛は満足げにうなずき、娘の佐代に視線を走らせた。
 佐代は、抱いていた猫が大音響に驚いて地面に跳び下り、駆けてゆく姿を目で追っている。

 次! という清兵衛の声に幸助が前に出た。
「あっしは、龍を型どりやした」
 それを聞いた観衆はどよめいた。未だ龍の姿を花火に表現した者などいないからである。
 幸助は佐代と視線を交わしてうなずくと、尺玉を抱えて打揚筒のそばまで行き、尺玉を入れると導火線に火をつけた。
 その時、佐代が大切に育てている猫が近づいてきた。危ない! と叫んで咄嗟に猫を抱えあげた瞬間、尺玉が筒から飛び出し、炸裂した。
 観衆からは歓声が聞こえなかった。声が出ないほどにその造形が素晴らしく、皆は息をのんで、口を開けて見上げていたのである。
 幸助は、声が聞こえなかったのは出来が良くなかったからだと思い、目の前が真っ暗になっていた。
 猫は、ミャァ〜と鳴いてどこかへ行ってしまった。