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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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 独立後初めて鍵屋に出向き、親方の清兵衛に頭を下げた。
「親方、おねげぃしやす。あっしの作った花火を、どうか見てやってくださいまし」
「おめぇ、目が不自由なのによく作れたもんだ。聞くところによると、うちで先に飼ってた猫のタマ、おめぇんとこにいるってか」
「いえ、タマはあの時以来見てません」
「おめぇにえらく懐いてたからな、うちからもいなくなってしまってナ、ひょっとしてって思ったもんでね。ああ、花火な、いいもんが出来たというなら、支度はうちでしてやろうじゃないか」

 前回と同じ荒川の土手に、多くの人たちが集まっていた。
 良太の腹にもたれて立つ七歳になる男の子と佐代の着物の袖を引っ張る四歳の男の子、そして佐代は、乳飲み子を負ぶっている。
 幸助は、仕掛け花火をしたいと伝えていた。数本の打揚筒に、大きさの異なる尺玉を大きさの順に、手探りで詰めていった。
 他人の手を借りるのが嫌で、玉に、一緒に来てほしい、と頼んだのだが断られたのだ。
 人前に出るのは、勘弁してほしい、と。
 玉、いくぜ! と気合を入れ、導火線に火を入れた。
 
 順次放たれた尺玉は、低空から上空に向かって順々に炸裂していった。低空で龍の顔が現れたかと思うとそれは胴体に変化し、上に向かうにつれその顔は大きく、そして天を仰ぎみている。そこに現れたのはまさしく、天に向かって駆け昇る龍だった。
 
 川の音が小さく聞こえていた。小さく手を叩く音がしたかと思うといきなり怒涛のように押し寄せてきた。
「幸助、素晴らしい出来だ」
 鍵屋清兵衛は手を叩きながら近づいて来ると幸助の肩に手を置き、手を握りしめた。
「明日、おめぇの住まいに寄せてもらう。いろいろと打ち合わせがしたいからな、お内儀にも会わせておくれ」

 翌朝、幸助の住まいを訪れた清兵衛が見たのは、すでにこと切れた幸助と、幸助にかぶさるようにして死んでいる老猫だった。そばに転がっている茶碗には、酒の匂いと粉末の毒がこびりついていた。


2012.8.1