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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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 夜空に見事な龍が駆け昇っていく姿を、お玉は近所の家の大屋根の上から見ていた。
 幸助は杖を頼りに、喜び勇んで家の玄関を開けて入って来るなり、玉を捜した。
「嬶・・・お玉!」
「おめでとうございます。見事な昇り龍でした」
「おめぇ、見てたのか」
 どこから見ていたのだろうかと怪訝に思ったが、親方が明朝やって来ることを知らせた。
「おめぇのことも話した。是非会わせてくれ、とおっしゃってな。明日が楽しみだ」
「お酒の支度をしておきました」
「おっ、酒なんざ何年振りだろう。酒断ち、してたからな」
 茶碗に入れたお酒を差し出して、酒の匂いを胸一杯に吸い込んでから口を茶碗に運ぶ、幸助の嬉しさに満ちている姿を、玉は寂しげに眺めていた。

 幸助に拾われてから、今日までの思い出が蘇ってくる。手毬を転がして遊んでもらったこと。おかゆを食べさせてもらったこと。そこにはいつも佐代も一緒にいたっけ。佐代にも可愛がってもらった。だけど私は、幸助さんがほんとに好きなんだ。

 幸助はお玉に、見えないはずの目を向けたまま、ゆっくりと傾いていった。
 板の上に転がり落ちた茶碗からこぼれた酒を、少しだけ口に含むとお玉は、幸助の上にかぶさり、息絶えた。
 猫の姿に戻ったタマは、龍の姿になった幸助の背中に跨って、開け放された部屋の窓から、星の瞬く天空に向かって駆け昇って行った。
 タマは龍にしっかりとしがみつき、金色の瞳を大きく見開くと、龍の頭に幸助の笑顔を見た。
 タマは微笑み返した。


                       2012.8.31