十のちいさな 小さなものがたり 1~10
いよいよ終盤となった現在、
ヒト属はたかだか七十億の同種属の中においても、いつも幸せである、といえる者はわずかしかいない。幸せに見えても、欲望がさらに高まるからである。ましてや他の種属の役に立っているとはいえない。せいぜい、植物や動物を強制的に移動させて、繁殖できる領域を増やしてやったぐらいのものである。
ゴキブリ属などは一兆五千億もの数が存在している。他の生き物の食べ物となったり肥料となったり、ヒト属との関係でいえば漢方薬や食用、実験動物、ペットにまでなり、他種属の幸せに貢献している。
バクテリア属は多種類に分化し、数え切れないほどの数が存在している。食べ物や薬やエネルギーとなって、それはそれは数え切れないほどの幸福を、それはそれは数え切れないほどの生き物に与えていた。
月は、このままではどうしても手に入らないだろうと悟ったヒト属は、自らの手で強引に手に入れる方法を考え出し・・・そして足跡を残した(つばを付けた)のである。
それはさておき、満月の夜になると、
ある種属たちは一斉に卵を放出し、種属の繁栄と幸福を誇った。
ある種属たちは手に入れることを誓って、月に向かって吠えた。
そしてヒト属は満月を見ると、どの種属にも渡さぬぞ、と気分が高揚するのである。
そういった行動は、二千万年前の神々の約束事を、すべての者たちが知らぬ間に、受け継いできているからである。
あとわずか制限時間が残っており、まだ勝負はついていない。
多くの生き物を幸せにすることが出来ない、役立たずの最下位の種属は消してしまおう、という約束事があったのかなかったのか・・・それは、知らない。
2012.8.23
作品名:十のちいさな 小さなものがたり 1~10 作家名:健忘真実