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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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8 勝者には月を与えよう

                 
 恐竜が絶滅してから、数千万年の時が流れた。
 地球上には、新たな種属の出現が途絶えていた。
 そこで神々がキリマンジャロの山頂に集まって酒宴を開いた時に、満丸で美しくも妖しく輝く月を愛でながら、ある提案をしたのである。
 《最も多くの生き物を幸せに出来た種属を創造した神とその種属には、優勝者として月を与えよう。期限は二千万年》

 三十億年近く繁栄してきたバクテリア属の神は、そのままの形態を維持していくことにした。数百度の熱水の中でも氷点下数十度の中でも、水があろうとなかろうと、はては空気がなくても生きていける者たちに分化していった。
 三億年命を繋いできたゴキブリ属の神や、その他の多くの種属の神はひたすら繁殖力を高めて、地上のどこででも生きていけるようにした。
 全く新しい種属も次々と創られていき、その中でもひときわ目を引いたのはヒト属である。サルから始まり、チンパンジー、ゴリラやボノボ、そしてついには二足歩行を始めると、器用な作業が出来る “手” を手に入れ、その手でいろいろな物を作り出していくことが出来た。神々はその創造性に驚嘆し、勝負に負けた、と思っていた。
 器用な手を手に入れたのは他にタコ属がいたが、物を作り出すまでには至っていない。

 期限があと千年となった時、いつの間にか争いばかりしているヒト属を見て、これでは最下位となってしまう、とあせったヒト属の神は正々堂々と争う方法を考案し、器用な手を思う存分使える、スポーツの祭典へと発展させた。四年に一度のそれは、準備期間も含めて多くの人々の気分を高揚させ、勝っても負けても、幸せな時間を共有することが出来る。だが、共有できる幸せな時間を持続させることはできなかった。
 器用な手が産んだ知能により、欲望はどこまでも果てしなく高まり、もう止めることが出来なくなっていたのである。個々の欲望により、争い事も絶えなくなっていた。
 自己と、己の領域に存在する者の幸せしか眼中にない。