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十のちいさな 小さなものがたり 1~10

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「プハ――ッ、きれ〜い〜、まるでおとぎの国にいるみたい」
 空を見上げた。千切れた薄い雲がゆっくりと動き、時々虹の前を通り過ぎていく。それを水中から見ると、水の揺らめきによって色が交差して、幻想的な世界を作り出していた。
 太田さんは僕の腕を取り、再び潜った。
 
 その日の練習が終わると、いつも一緒に帰っている友達に断わりを入れて、太田さんは僕を誘ってくれた。
「秋野君って、よくあんなこと知ってたんやねぇ」
「うん・・・あのさぁ・・・覚えてるかなぁ、5年の時」
「小5の時?・・・夏休みの学校のプールで?」
「うん、あの時にな、虹の幻想的な現象を見て不思議な気分を味わって、太田さんにこっそり教えてあげよう、思て」
「ふ〜ん、そうかぁ、けどその時に見て知ってしもてたら、今日みたいな感動は得られんかったわけや」
「感動した?」
「ふん、よかった。教えてくれてありがとう」
 振り向いた、笑みをいっぱい含んだ顔がまぶしくて、さりげなく両手を上げて伸びをし、空を仰ぎ見た。
「見れるタイミングって、なかなかないもんやけど、今日はほんまにええタイミングで、きよったわ」
「あぐると、ふたりっきりになれたしね。あの虹、神様からのプレゼントかも知れんね。お詫びの」
「何に対して?」
 今度はしっかりと顔を見据えて尋ねると、太田さんは真剣な表情をして答え、楽しげに笑った。
「5年前の誤解に対して・・・ウフフフフ」


                       2012.8.16